原告Xは、特許庁が82年に発表した「マイクロコンピュータ応用技術に関 する発明についての運用指針」を引いて、次の様に主張した、
 即ち、運用指針には「ソフトウエアにより働かされるマイクロコンピュータ によって実現される情報処理又は制御は、マイクロコンピュータ応用技術全体か らみると、種々の機能の集まりにより実現されていると考えることができる。そ して、上記種々の機能に対応してそれぞれの機能実現手段が存在するものと考え 、マイクロコンピュータ応用機器に関する発明は、これらを構成要件とする装置 発明としてとらえることができる。」と記載されており、また「マイクロコンピ ュータにより果たされる機能に着目して、対比判断を行う。例えばa)マイクロ コンピュータにより果たされる複数の機能が「マイクロコンピュータ等でくくっ て記載されている場合でも、各機能が個別の手段により実現されているものとし てとらえ、機能に着目して対比判断を行う。b)ある機能が個別のハードウエア により実現されている場合でも、実現手段によってもたらされる効果が普通に予 測される効果をこえるものでなければ、その実現手段の差異にとらわれることな く、機能に着目して、対比判断を行う。」と記載されている。
 したがって、上記観点からすると、本件発明の構成要件の「管理装置」は、 「ホストコンピュータ」と別体の装置に限定されるものではない。
 しかし、このような主張は退けられたのである。
 判決理由では、理由 i)だけでは、「管理装置」がホストコンピュータ」と は一体のものである、との即断はできないとしている。これは上述の原告の主張 によるものと思われるが、理由 iii) iv)が理由 i ii)以上の合理性を有し ているとは考えられない。
 しかして、発明者が図6の様なシステムをもその発明として認識していたのであれば、特許請求の範囲 には「コンピュータ」「CPU」あるいは「管理装置」「ホストコンピュータ」 等の文言を明記しなかった筈であろうし、そうであれば実施例が図5のものだけであったとしても、逆の判決が期待できたことと思われる。
 インターネットで代表されるようにコンピュータが通信と深く関わりを持つ 時代になってきた。データがどこにあり、情報処理、演算がどこで行われている かが重要性を持たない技術が多くなってきている。個々のコンピュータの機能を 定義すること、特定のコンピュータ、CPUの存在を明記することには慎重であ りたい。

2.3.2 分散処理システム化

 情報処理における分散処理システム化、特にネットワークによる分散処理化 は、具体的なシステムを構築する場合に多大な融通性を提供することになる。そ うすると、クレーム作成時点では予想困難な種々のシステムが現実に出現するこ とが考えられる。従って、クレーム解釈において、システム分散化に起因して種 々の問題が提供されることになろう。この問題点は、i)分散処理システムの構 成それ自体が発明の対象とされている場合にも、ii)そうでない場合にも、生じ て来るであろう。
 i)の場合には、クレーム作成時点で十分に検討されているので、ii)の場 合に比べて問題となることが少ないと思われる。しかし、例えば、クレームにお いて実質的な構成要件(発明特定事項)として複数の処理が規定されている場合 に、第三者により地域的に分散して行われた当該複数の処理の1つが「海外での み」実行されたときにどのように考えるべきか、と言った問題もあろう。
 一方、ii)の場合には、クレーム作成時点での予想を越える問題が生じてく るであろう。
以下に例を挙げてみる。
*分散処理が想定されていないソフトウエア関連発明の装置クレームに対して 、地域的な分散処理のシステムが第三者により実施された場合
*ホストコンピュータとローカル・コンピュータとが回線で結合されて構成さ れるシステムの場合に、クレームには、ホストコンピュータが機能Aと機能Bを 行い、ローカル・コンピュータが機能Cと機能Dを行う旨が規定されているケー スにおいて、第三者により実施されたシステムでは、機能Cがローカル・コンピ ュータでなく、ホストコンピュータで実行される場合、さらに、機能Cも機能D もホストコンピュータで実行される場合(ここでローカル・コンピュータは単な る入出力装置として機能(注1))なお、ホストコンピュータとローカル・コン ピュータとが回線で結合されて構成されるシステムの場合であって、そのシステ ムがデータベースであり、ローカル・コンピュータがデータベースにアクセスす る端末として使用される、と言うようなときには、ローカル・コンピュータ(端 末)の使用者が、ホストコンピュータ(データベース)の提供者とは別人になる だろうし、端末の使用者が不特定人となる可能性が高いから、問題はややこしく なる。従って、出願時から、種々の状況に対応できるよう、実施時の状況を想定 したクレーム(例えば、データベース単独のクレーム、端末単独のクレーム、デ ータベースと端末とを組み合わせたもののクレーム)を作成する必要があろう。

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