1.概要
クレームとイ号製品とが均等か否かは、Graver Tank最高裁判決
*1により判示された下記手法のいずれかにより判断される。
(1)クレーム発明と、イ号製品またはイ号方法との相違がinsubstantial(非実質的)であるか否か、または、(2)イ号製品または方法が、特許製品または方法の各クレーム構成要件と、実質的に同じ方法で、実質的に同じ機能を果たし、実質的に同じ結果を伴うか否か。
今月紹介する事件ではイ号製品がクレームと同一の機能を果たすか否かが争点となった。同一の機能を果たすか否かを判断するにあたり、
原告特許製品の機能を紹介する原告Webサイトを判断材料として用いることができないと判示された。
2.背景
(1)Aquatex(以下、原告)はPatent No. 6,371977(977特許)を所有している。977特許は蒸発を通じて人間を冷却する方法に関する。これは、冷却服内の液体保持合成部材を用いるものである。原告は被告Technicheを977特許のクレーム1及び9の侵害であるとして連邦地方裁判所に提訴した。
クレーム1
*2の液体保持合成部材は次の構成要件により構成される。
fiberfill batting material(繊維充填材を詰めたもの)
hydrophilic polymeric fibers(親水性重合繊維)
なおfiberfillは
合成繊維の充填材である。
被告のイ号製品は、1点を除きクレーム構成要件を全て備える。クレームがfiberfill、つまり合成繊維からなる充填材である点で、
天然繊維と合成繊維との混合物(Vizorb(登録商標))からなる充填材であるイ号製品と相違する。
原告は被告が977特許のクレーム1及び9を侵害するとして連邦地方裁判所に提訴した。
(2)第1回地裁判決
地裁は、イ号製品は天然繊維を含むので、文言上非侵害との判決をなした。また、均等論に関しては禁反言の法理により均等論の主張は認められないと判断した。
原告は審査経過において、先行技術との相違を主張するために、補正を行っている。 先行技術は圧縮により人体を冷却するものであり、本願は蒸発により冷却するものであるとの主張を行った。さらに補正により先行技術との相違点を明確にすべく、
by evaporation(蒸発によって)
and evaporatively cooling said person(前記人物を蒸発冷却する)
と補正した。地裁はこれを根拠に禁反言の法理により、均等論は主張できないと判断した。原告はこれを不服としてCAFCへ控訴した。
(3)第1回控訴審
CAFCは、文言上非侵害と判断し、地裁の判決を支持した。つまり、明細書における繊維充填材の例、引用されている他の3特許及び外部証拠(辞書等)を参照した場合、fiberfill繊維充填材は合成繊維であり、天然繊維及び合成繊維の混合物からなるイ号製品(充填材)とは文言上相違するからである。
禁反言に関しては、地裁の判決は誤りであるとして差し戻した。つまり、審査経過でなされた議論は、fiberfillとは何の関係もなく、また補正した事項もfiberfill
battingとは全く関係がない。CAFCは、均等か否かの判断をせよとの差し戻し判決
*3をなした。
(4)第2回地裁判決 2回目の審理において、地裁はクレームのfiberfillとイ号製品の充填材とは均等ではないと判示した。つまり、クレームのfiberfillが蒸発の機能を果たすところ、イ号製品の充填材は実質的に同一の蒸発機能を果たさないと判断した。機能・方法・効果テストにおける「機能」が実質的に同一でないことから均等でないと判断した。
*4
原告はこれを不服として再度CAFCへ控訴した。
3.CAFCでの争点
原告Webサイトを証拠として利用できるか?
地裁は「fiberfill batting material」の機能を判断する際に、原告の特許製品が紹介された原告Webサイトに、当該特許製品が蒸発を促進する機能を有すると記載されていたことを根拠にした。そしてイ号製品は蒸発促進機能を有さないから、実質的に同一の機能ではないとして、均等の成立を認めなかった。
このように、クレームの均等の機能性判断において、原告Webサイトを証拠として利用することは認められるのであろうか?本事件ではこの点が問題となった。
4.CAFCの判断
原告Webサイトを機能性判断に用いてはならない。
CAFCは、機能性判断にあたり、原告特許製品を開示する原告Webサイトを根拠にした地裁の判断を誤りとした。
これに関しCAFCは
「文言及び均等侵害のいずれにおいても侵害は、被告製品と、特許権者の商品化 された製品とを比較するものであってはならない」
と判示した
*5。
すなわち、均等論を適用する場合、あくまで
クレーム発明と、イ号装置との非実質性、または、機能・方法・結果の実質同一性を議論しなければならない。以上のとおり、CAFCは地裁の均等の機能性判断に対するアプローチに誤りがあると判断した。
5.結論
CAFCは、地裁がなした均等の機能性に関する判断に誤りがあると判示した。
6.コメント
均等の判断における機能・方法・効果テストの判断の難しさを物語る事件である。争点となる文言とイ号とがなす機能が実質的に同一、または実質的に同一でないことの証明を何に求めるかが、本事件では示されている。争点となる均等の機能性の判断にあたっては、クレーム、明細書及び審査経過を原則とすべきであって、特許製品及びこれに関する広告等は証拠として利用すべきではない。
本稿では記載を省略しているが、結局原告も、実質的に同一の機能を果たす根拠を明確にすることができなかったため、最終的にはイ号製品は非均等と判決された。
判決 2007年2月27日
以 上
【関連事項】 判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができます[PDFファイル]。
http://www.fedcir.gov/opinions/06-1407.pdf
【注釈】
*1 Graver Tank & Mfg. Co. v. Linde Air Prods. Co., 339 U.S. 605, 608 (1950)
*2 977特許のクレーム1は以下のとおり。
A method of cooling a person by evaporation, comprising: providing a multi-layered, liquid-retaining composite material comprising a fiberfill batting material, and hydrophilic polymeric fibers that absorb at least about 2.5 times the fiber's weight in water; soaking said multi-layered composite in a liquid; employing said multi-layered, liquid-retaining composite material as a garment or a flat sheet and evaporatively cooling said person.
*3 AquaTex Industries, Inc. v. Techniche Solutions, 419 F.3d 1374 (Fed. Cir. 2005)
*4 AquaTex Indus., Inc. v. Techniche Solutions, No. 3:02-0914, 2006 WL 1006631, at *8 (M.D. Tenn. Apr. 13, 2006).
*5 Johnson & Johnston Assocs. Inc. v. R.E. Serv. Co., 285 F.3d 1046, 1052 (Fed. Cir. 2002) (en banc) (internal quotation marks omitted); see also Donald S. Chisum, 5A Chisum on Patents § 18.04[1][b] (2005).
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