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KSR最高裁判決後の効果的な反論とダメな反論

執筆者 弁理士 河野英仁
2007年10月15日

1.自明性に関するガイドラインリリースされる
 米国特許商標庁(USPTO)は2007年10月10日、自明性に関するガイドライン*1を公表した。これはKSR最高裁判決*2を受けて、自明性に関する判断基準の見直しを行う必要が生じたことから、審査官の自明性判断のガイドラインとすべく、新たに作成されたものである。KSR最高裁判決においては、TSMテスト*3を前提とする厳格ルールから、一般常識を含め技術分野において公知の事項及び先行特許で言及されたあらゆる必要性または問題もが、組み合わせのための根拠となるフレキシブルアプローチへと自明性の判断が変更された*4

 本稿では、自明性判断の大まかな流れ、審査官による組み合わせ自明の予期される主張を概説すると共に、この審査官の認定に対し、どのような主張が有効かを説明する。

 なお、このガイドラインは法的拘束力(binding)を有するものではない。あくまで自明性の判断は、Graham最高裁判決、KSR最高裁判決及び他のCAFC判決を含む拘束力を有する判例に基づき、総合的に判断しなければならない。

2.Graham最高裁判決に基づく自明性判断
米国特許法103条(a)は、
「発明が第102条に規定された如く全く同一のものとして開示又は記載されていない場合であっても,特許を得ようとする発明の主題が全体としてそれに関する技術分野において通常の技術を有する者にその発明のなされた時点において自明であったであろう場合は特許を受けることができない。」と規定している。

 自明か否かの判断においては、Graham最高裁判決において判示された下記事項をまず検討する。
(a)「先行技術の範囲及び内容を決定する」
(b)「先行技術とクレーム発明との相違点を確定する」
(c)「当業者レベルを決定する」
(d)「2次的考察を評価する」(例:商業的成功、長期間未解決であった必要性、他人の失敗等)

 これらを総合的に考慮して当業者にとって自明と判断した場合、出願を拒絶するが、そのためには審査官は、明確な理由付けが必要となる。

ガイドラインにはその理由付け例として以下の7つの例を挙げている。
第1:予期できる結果を奏するために、公知の方法に従い先行技術を組み合わせたにすぎない
第2:予期できる効果を得るために、単に公知の要素に置換したにすぎない
第3:同様の方法で、類似の装置(方法または製品)を改良するために公知の技術を用いたにすぎない
第4:予期できる効果を奏するために、改良可能な公知の装置(方法または製品)に公知の技術を適用したにすぎない
第5:自明の試み(obvious to try)にすぎない。つまり、成功の合理的期待をもって、有限の予期できる解決法の中から選択したにすぎない
第6:デザインインセンティブまたは他の市場圧力を受けて、努力傾注分野における公知の作業により派生したものにすぎない。ただし、その派生が当業者にとって予期できることが条件である。
第7:先行技術中に変形または組み合わせのための教示、示唆または動機付けが存在する

3.有効な反論とダメな反論
 103条(a)の拒絶理由を受けた場合、今度は出願人側が自明でないことを立証する責を負う*5
(1)ダメな反論
「審査官は、一応の自明(prima facie case)を立証していない。」
「審査官は一般常識と述べているが、具体的な書面による証拠をもって立証するものではない。」
これらの反論をしたとしても、有効ではなく同様の理由によりFinalオフィスアクションを受けることになる。また審査官が上述した第7の主張をした場合を除き、先行技術文献中に変形または組み合わせのための教示、示唆または動機付けが存在しないとする反論も、今後は有効な反論とはいえない

(2)有効な反論・対策
組み合わせ容易と判断された場合、以下の反論を行う。
(i)先行技術の認定の誤り
 まず審査官が挙げた先行技術が妥当なものであるかを検討する必要がある。審査官がクレームの構成要件とは全く相違する先行技術を挙げる場合もあり、この場合、Graham factor(b)「先行技術とクレーム発明との相違点確定」に誤りがある点を反論する。

(ii)補正による構成要件の追加
 (i)において認定が妥当と思われる場合、先行技術中に存在しない構成要件を追加する減縮補正を検討する。先行技術に存在しない構成要件を追加する補正を行うことが最も有効な対策である。

(iii)予期できない効果を主張する
 クレームにより予期できない効果が生じることを主張する。ただし、一般的なメリット、例えば小型化達成、信頼性の増加、操作が簡易となる、及び、コスト低減等の主張は認められにくい傾向にある*6

(iv) Graham factor (d)2次的考察を主張する
 例えばクレームに係る製品の商業的成功、長期間未解決であった必要性、他人の失敗等を主張する。

(v)当業者が組み合わすことができない点を主張する
 公知の方法では、当業者が組み合わせることができないことを主張する。これは例えば組み合わせることに技術的困難性がある等の阻害要因(Teach away)*7を主張する。

(vi)組み合わせたとしても同様の効果を奏し得ない点を主張する
 先行技術中の各技術を単に組み合わせたとしても、クレームが奏する効果を奏し得ない点を主張する。

4.まとめ
 自明か否かの判断は、事案に応じて相違するため個別具体的な判断・主張が必要とされる。KSR最高裁判決以前と比較した場合、非自明のレベルが高くなり、また出願人側の立証・主張負担が増加している。
 さらに追い打ちをかけるように、2007年11月1日施行予定の新規則では継続出願及びRCEの回数が限定される。このような状況下においては、Firstオフィスアクション時に、十分な対策を練る必要がある。有効な補正及び反論と共に、無用のオフィスアクションを防止すべく審査官とのインタビューを積極的に活用すべきであろう。

以 上

【注釈】
*1 ガイドラインはUSPTOのWebサイトからダウンロードすることができる。
http://www.uspto.gov/web/offices/com/speeches/07-43.htm
http://www.uspto.gov/web/offices/com/sol/notices/72fr57526.pdf
*2 KSR Int’l Co. v. Teleflex, Inc., 127 S. Ct. 1727, 1742 (2007)、550 U.S. _, 82 USPQ2d 1385 (2007)
*3 TSMテスト:教示(teaching)-示唆(suggestion)-動機(motivation)テストの略である。先行技術の記載に重きを置き、ここに当業者がこれらを組み合わせるための教示、示唆または動機が存在する場合に、自明であると判断する手法である。Al-Site Corp. v. VSI Int?l, Inc., 174 F. 3d 1308, 1323?1324 (CA Fed. 1999)。なお、TSMテスト自体は依然として有効である。
*4 詳細は、
http://www.knpt.com/contents/cafc/2007.05/2007.05.htm
を参照されたい。
*5 37 C.F.R. 1.111(b)
「再考慮又は更なる審査を受ける権利を取得するためには,出願人又は特許所有者は庁指令に応答しなければならない。出願人又は特許所有者による応答は,審査官の処分の中に存在していると考えられる過誤を明瞭かつ個別的に指摘する記述に限定されなければならず,また,先の庁指令における異論及び拒絶の全ての理由に応答しなければならない。応答は,新たに提出されるクレームを含むそのクレームに,適用されている引用例に関して,特許性を与えると考えられる明確な相違点を指摘する論拠を提出しなければならない。応答が出願に関するものである場合は,クレームの更なる考慮にとって必要でない方式についての異論又は要求は,許可可能な主題が指示されるまでは保留にするよう要求することができる。出願人又は特許所有者による応答はその全体にわたって,出願又は再審査手続を最終処分に進めるための誠実な努力と思われるものでなければならない。クレームの文言がそのクレームを引用例から如何様に区別しているかを明示して指摘することなく,クレームは特許性を有する発明を明確に表示している旨の一般的主張は,本条の要件を満たすものではない。」
特許庁HP
http://www.jpo.go.jp/shiryou/index.htm
*6 Leapfrog Enterprises, Inc., v.Fisher-Price, INC. et al., _ F.3d _(Fed. Cir. 2007)
詳細は
http://www.knpt.com/contents/cafc/2007.07/2007.07.html

を参照されたい。
*7 In Re Icon Health and Fitness, INC., 2006-1573(Reexamination No. 90/005,117)(2007年10月19日配信予定のメルマガ参照)。

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