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ビジネスモデル特許と権利侵害

〜複数当事者の行為を押さえることができるか〜

BMC Resources, Inc.,
Plaintiff-Appellant,
v.
Paymentech, L.P.,
Defendant-Appellee.


執筆者 弁理士 河野英仁
2007年11月20日

1.概要
 本事件において問題となった特許は、金融決済処理に用いられるビジネスモデル特許である。特許権の直接侵害は、方法クレームの場合、原則として全ての構成要件を被告が実施した場合に成立する。クレームの構成要件を一の当事者が全て実施している場合には問題が生じない。
 しかし、複数の当事者が分担して構成要件の全てを実施している場合、どのように侵害の成否を判断すればよいか?
 本事件においては、被告の他の当事者に対する指示または管理が存在しないことから、被告による直接侵害の成立を否定した。

2.背景  
BMC(以下、原告)はU.S. Patent No. 5,715,298(以下、298特許)及び5,870,456(456特許)を所有している。これらは暗証番号(PIN: Personal Identification Number)を入力することなく、金融決済を可能とするビジネスモデル特許である。

 図1に示すように、本システムは、プッシュ式電話12、自動音声案内及び仲介処理を行うエージェント10、並びに、遠隔支払いネットワークであるデビットカードネットワーク20及び金融機関22により構成され、ユーザは電話のボタン操作により、リアルタイムでの決済処理を行うことができる。

説明図

 具体的な処理の流れは以下のとおりである。ユーザはエージェント10による自動音声案内に従い、支払い番号及び支払金額等をプッシュ式電話12により入力する。エージェント10は、入力された情報を、デビットカードネットワーク20及び金融機関22へ送信する。金融機関22は認証を行った後、決済処理を行う。

 争点の一つである456特許のクレーム6及び7*1は以下のとおりである。
6.(a)被支払人の代理人のシステムを介して、少なくとも一つの遠隔支払いカードネットワークに接続された電話回線網を用いた料金支払い方法であって、発話人は被支払人への自発的な支払い取引を開始すべく、前記電話機回線網を用いてセッションを開始するものであり、以下のステップを含む:

(b)発話人に対し、クレジットまたはデビットのいずれかの支払い番号を入力するよう促進する;

(c)発話人に支払い取引のための支払金額を入力するよう促進する;

(d)前記入力された支払い番号に関する遠隔支払いネットワークにアクセスする;

(e)前記アクセスされた遠隔支払いネットワークはセッションの間に下記決定を行う、

(f)支払い取引を完了するために、十分に利用可能な信用または金額が支払い番号に関する口座に存在するか否か;

(g)十分な信用または金額が存在すると判断した場合、

(h)入力された支払い番号の口座に対し入力された支払金額を課金する;

(i)入力された口座番号に関する口座(被支払人の口座)に入力された支払金額を加算する;and

(j)口座番号、支払い番号及び支払金額をシステムの取引ファイルに記憶する.

7.クレーム6の方法であって、
前記支払いはPINレスのクレジットまたはデビットカード番号である。

 一方、エージェントであるPaymentech(以下、被告)は、456特許と同様の方法を用いた金融決済サービスを提供していた。

 原告は、被告が456特許のクレーム7及び298特許のクレーム2を侵害するとして、テキサス州地方裁判所に提訴した。地裁は、被告が全ての構成要件を実施するとはいえないことから、非侵害との判決をなした*2。原告はこれを不服としてCAFCに控訴した。

3.CAFCでの争点
 複数当事者による共同実施の場合、直接侵害が成立するか?
 被告は本事件における全てのステップを実施しているわけではない。被告、及び、金融機関を含むデビットネットワークにより共同で方法クレームを実施しているのである。例えば、
クレームの一部の構成要件(e)〜(h)
(e)前記アクセスされた遠隔支払いネットワークはセッションの間に下記決定を行う、
(f)支払い取引を完了するために、十分に利用可能な信用または金額が支払い番号に関する口座に存在するか否か;
(g)十分な信用または金額が存在すると判断した場合、
(h)入力された支払い番号の口座に対し入力された支払金額を課金する; はデビットネットワークが実施する行為である。

 本事件においては、複数の当事者が共同で方法クレームを実施している場合に、直接侵害が成立するか否かが問題となった。

 なお、方法クレームの一部を実施する被告の行為を、米国特許法第271条(b)(c)*3に規定する間接侵害(寄与侵害)とする主張も考えられる。しかしながら、米国においては米国特許法第271条(a)*4に規定する直接侵害の存在が前提*5となるため、本事件においては争点とならなかった。

4.CAFCの判断
被告が他の当事者に対し指示を行い、または他の当事者を管理している場合、直接侵害となる
 直接侵害が成立するためには、被告が方法クレームの全ての構成要件を実施していることが必要とされるのが原則である。

 その一方で、当該原則を貫くと、ある構成要件を、意図的に他の当事者に実施させることにより、直接侵害の責を逃れ得るという法の抜け穴が生じてしまう。Shields事件*6においては、このような侵害を回避する行為に関しては、直接侵害の責を負うと判示している。

 CAFCは直接侵害に係る当該原則と、これに対する例外との法バランスを考慮した上で、被告及び当事者による共同実施に基づく直接侵害が成立するためには、
「被告が当事者に対し方法クレームの各ステップの実施に関し指示または管理」を行っていることが必要とされると判示した。

 当該基準を本事件に当てはめると被告の行為は非侵害である。被告は、金融機関を含むデビットネットワークに対し、各種データの使用に関する指示または管理を何ら行っていない。また被告と金融機関との間にも契約関係はない。CAFCは、被告が指示または管理していたとする証拠が不十分であるとして、原告の主張を退けた。

5.結論
 CAFCは、直接侵害に該当しないとした地裁の判決を支持する判決をなした。

6.コメント
 CAFCは、被告の行為に焦点を当てたクレームを作成すべきであったと述べている。298特許及び456特許のクレームを見ると、方法のクレームしか記載されておらず、しかも被告及びデビットネットワーク双方の共同行為に係るクレームしか作成されていない。

 本事件においては、他の構成要件の実施を他の当事者に指示、または他の当事者を管理下に置いていた場合等の特段の事情がある場合を除き、原則として直接侵害には該当しないと判示された。

 ビジネスモデル特許においては、競業他社のみが行う行為、装置、またはプログラムに焦点を当てたクレームを注意深く作成する必要があるといえる。実際のビジネス動向及び他社の販売形態等を発明者から注意深く聞き取ると共に、一般ユーザ及び本例における金融機関等、権利行使が困難な要素は排除したクレームを作成すべきである。

判決文で言及されたLemley氏の著書”Divided Infringement Claims”*7には次のような記載がある。
「A patentee can usually structure a claim to capture infringement by a single party.」

判決 2007年9月20日
以 上
【関連事項】
判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができます[PDFファイル]。
http://www.cafc.uscourts.gov/opinions/06-1503.pdf

【注釈】
*1 456特許のクレーム6
6. A method of paying bills using a telecommunications network line connectable to at least one remote payment card network via a payee’s agent’s system wherein a caller begins session using a telecommunications network line to initiate a spontaneous payment transaction to payee, the method comprising the steps of:
prompting the caller to enter a payment number from one or more choices of credit or debit forms of payment;
prompting the caller to enter a payment amount for the payment transaction;
accessing a remote payment network associated with the entered payment number,
the accessed remote payment network determining, during the session, whether sufficient available credit or funds exist in an account associated with the payment number to complete the payment transaction,
and upon a determination that sufficient available credit or funds exist in the associated account,
charging the entered payment amount against the account with the entered payment number,
adding the entered payment amount to an account associated with the entered account number, and
storing the account number, payment number and payment amount in a transaction file of the system.
7. The method of claim 6 wherein said payment is a PINless credit or debit card number.
*2 BMC Resources, Inc. v. Paymentech, L.P., No. 3-03-CV-1927-M (N.D. Tex. May 5, 2004)
*3 271条(b)(c)の規定は以下のとおり。
(b) 積極的に特許侵害を誘発した者は,侵害者としての責めを負うものとする。
(c) 特許を受けている機械,製品,組立物若しくは合成物の構成要素,又は特許方法を実施するために使用される材料若しくは装置であって,その発明の主要部分を構成しているものについて,それらが当該特許の侵害に使用するために特別に製造若しくは改造されたものであり,かつ,一般的市販品若しくは基本的には侵害しない使用に適した取引商品でないことを知りながら,合衆国において販売の申出若しくは販売し,又は合衆国に輸入した者は,寄与侵害者としての責めを負うものとする。
特許庁HP(http://www.jpo.go.jp/shiryou/index.htm
*4 271条(a)の規定は以下のとおり。
(a) 本法に別段の定めがある場合を除き,特許の存続期間中に,権限を有することなく,特許発明を合衆国において生産,使用,販売の申出若しくは販売する者,又は特許発明を合衆国に輸入する者は特許を侵害する。
特許庁HP(http://www.jpo.go.jp/shiryou/index.htm
*5 Dynacore Holdings Corp. v. U.S. Philips Corp., 363 F.3d 1263, 1272 (Fed. Cir. 2004)、Aro Mfg. Co. v. Convertible Top Replacement Co., 365 U.S. 336
*6 Shields v. Halliburton Co., 493 F. Supp. 1376, 1389 (W.D. La. 1980).
*7 Mark A. Lemley et al., Divided Infringement Claims, 33 AIPLA Q.J. 255, 272-75 (2005)

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