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複数人が特許を侵害した場合、誰が責任を負うか?

~オークション特許と特許権侵害~

Muniauction, Inc.,
Plaintiff-Appellee,
v.
Thomson Corp., et al.,
Defendants-Appellants.

執筆者 弁理士 河野英仁
2008年9月20日

1.概要
 方法の発明について特許が付与されている場合、方法クレームの各ステップを被告が全て実施した場合、特許権侵害となる。では、一部のステップを第3者に実行させ、被告は残りのステップを実行した場合、特許権侵害が成立するであろうか?

 本特許はインターネットを通じた地方債のオークション特許である。本事件においては、方法クレームを構成する多くのステップはオークション運営者である被告が実行していたが、一部のステップは入札者が実行していた。

 地裁は、被告が入札者のシステムに対するアクセスを制御し、また、当該システムの使用に関し、入札者を指導していたことから、特許権侵害が成立すると判断した。しかしながら、CAFCは、被告及び入札者間に、BMC事件*1で確立した基準「管理または指示」を満たさないとして、特許非侵害と判示した。


2.背景
 Muniauction(以下、原告)はU.S. Patent No. 6,161,099(以下、099特許)の特許権者である。099特許はインターネットを通じた地方債のオークション技術に関する。

 099特許では、Parity(登録商標)と称される先行技術の問題点を指摘している。Parityシステムも同様に地方債のオークション技術であるが、オークションに参加するためには、専用のソフトウェアを入手し、かつ、ユーザのコンピュータにこれをインストールする必要があった。

 また、Parityシステムでは、ユーザは一部の情報をFAX等により送信する必要があり、オークションが終了するまでは、他人の付け値等の情報を把握できないという問題があった。

 099特許はこれらの問題を解消するために、ユーザにブラウザを使用させることで特別なソフトウェアの使用及びインストールを不要とした。また、単一のWebサーバにシステムを統合することで、地方債を販売する自治体自身にオークションを運営させ、さらに、入札者がリアルタイムで他の入札価格を監視することができる構成とした。

 図1は099特許のシステム概要を示す説明図である。099特許のシステムは、オークションの主催者のコンピュータ10、インターネット12及び入札者のコンピュータ14, 14, 14,・・により構成される。入札者はインターネット12を介してコンピュータ10にアクセスし、コンピュータ14のブラウザを用いて、入札を行う。

099特許のシステム概要を示す説明図


図1 099特許のシステム概要を示す説明図

 図2はオークションの結果を示す説明図である。図2の例は、オレゴン州ポートランドの金融商品に対する入札結果を示している。入札者のコンピュータ14のブラウザには最高入札額等の各種情報が表示される。



図2 オークションの結果を示す説明図

 2001年6月1日原告は被告をペンシルベニア連邦地方裁判所に提訴した。原告は、被告が099特許のクレーム2等を侵害していると主張した。地裁は、被告の特許権侵害を認め、被告に対し永久差し止め及び約80億円の損害賠償を命じた*2。被告はこれを不服としてCAFCに控訴した。


3.CAFCでの争点
管理または指示”Control or Direction”基準を満たすか?
 独立クレーム1に従属するクレーム2*3は以下のとおりである。

クレーム1
ディスプレイを有する発行人コンピュータ、及び、入力装置及びディスプレイを有する少なくとも一つの入札者コンピュータを有する電子オークションシステムにおいて、 前記入札者コンピュータは発行人コンピュータに対し遠隔地に設けられ、これらのコンピュータはコンピュータ間でデータメッセージを通信するためのネットワークを介して接続され、
確定利付き金融商品をオークションするための電子オークションプロセスであり以下の処理を含む:
 少なくとも一つの確定利付き金融商品のための少なくとも一つの入札に関するデータを、前記入札者コンピュータに前記入力装置を介して入力する
 前記入力されたデータの少なくとも一部に基づき、少なくとも一つの金利負担額を自動的に計算し、前記自動的に計算された金利負担額は、前記少なくとも一つの確定利付き金融商品に関する借り入れ費用を示す利率を特定し;and
 前記入札者コンピュータからネットワークを介して、前記入力されたデータを送信することにより前記付け値を提出する
 前記ネットワークを介して前記発行人コンピュータへ提出された付け値に関するメッセージを通信し、前記発行人コンピュータのディスプレイに、前記計算された金利負担額を含む前記付け値に関する情報を表示する;
 前記入力ステップ、自動計算ステップ、提出ステップ、通信ステップ及び表示ステップの少なくとも一つは、ウェブブラウザを使用することにより実行される。
クレーム2:
クレーム1のプロセスであり、以下のステップをさらに含む、
前記入札を承認する前に、各入札が予め定められた入札パラメータに合致するか否かを検証するステップ。

問題となったのは、
少なくとも一つの確定利付き金融商品のための少なくとも一つの入札に関するデータを、前記入札者コンピュータに前記入力装置を介して入力する;」ステップ、及び、 「前記入札者コンピュータからネットワークを介して、前記入力されたデータを送信することにより前記付け値を提出する;」ステップである。
 これらのステップは、オークションを運営する被告の行為ではなく、入札者の行為である。この場合に、被告のクレーム2に対する直接侵害が成立するか否かが問題となった。


4.CAFCの判断
「被告に成り代わって」基準の採用
 本事件の審理中に、この争点に関連する重要な判決がなされた。これが冒頭で述べたBMC事件である。以下にBMC事件の概要を説明する。

(1)BMC事件
 BMC事件で問題となった特許はU.S. Patent No. 5,715,298(以下、298特許)及び5,870,456(456特許)である。これらは暗証番号を入力することなく、金融決済を可能とするビジネスモデル特許である。

 298特許等のクレームの一部にも、金融決済を行うユーザの行為が構成要件に含まれていた。直接侵害が成立するためには、被告が方法クレームの全ての構成要件を実施していることが必要とされるのが原則である。

 その一方で、当該原則を貫くと、ある構成要件を、意図的に他の当事者に実施させることにより、直接侵害の責を逃れ得るという法の抜け穴が生じてしまう。CAFCは直接侵害に係る当該原則と、これに対する例外との法バランスを考慮した上で、被告及び当事者による共同実施に基づく直接侵害が成立するためには、
「被告が当事者に対し方法クレームの各ステップの実施に関し管理または指示
 を行っていることが必要とされると判示した。

(2)本事件
 CAFCは、新たに”on behalf of defendant(被告に成り代わって)”の基準を持ち出し、直接侵害は成立しないと結論づけた。

 直接侵害が成立するか否かは、BMC事件で判示された如く、オークションの管理者である被告が、入札者に対し管理または指示を行っていたか否かを判断する必要がある。

 クレームの一部が入札者により実行されているということに関しては当事者間で争いはない。原告は、オークション運営者である被告がオークションシステムへのアクセスを制御しており、また、当該システムの使用に関し、被告は入札者を指導していたと主張し、BMC事件で判示された「管理または指示」の要件を満たすと述べた。

 しかしながら、CAFCはかかる被告の行為は直接侵害を構成しないと判断した。BMC事件における「管理または指示」は、被告自身がクレームの全てのステップを実行していたと言わしめるほど、第3者(本事件では入札者)を管理または指示していることが必要であると述べた。

 すなわち、被告に成り代わって、第3者が一部のステップを実行している場合にのみ直接侵害が成立すると判示した。


5.結論
 CAFCは、直接侵害が成立するとした地裁の判決を取り消した。


6.コメント
 BMC事件を解説した際にも述べたが、クレームの作成にあたり大変参考となる事件である。共にいえることは、
 クレームの構成要件はOne Partyが実行する要件のみを記載すべし
である。

 BMC事件で判示された「管理または指示」の適用要件は、厳格であることが本事件で明らかとなった。筆者はこの要件は厳格に過ぎるのではないかと考える。

 本事件においては、被告であるシステム管理者は、オークションシステム全般を運営・管理している。また、入札者に対するアクセス制限も行っている。その上、入札者に対し、入札の仕方等を指導していることから、被告は入札者を管理または指示している蓋然性が極めて高いと考えられる。

 それにもかかわらず、CAFCは第3者が被告に成り代わって一部のステップを実行した場合にのみ、当該第3者を「管理または指示」の要件を満たすと判示した。またCAFCはクレーム作成者が、クレーム作成の際に注意すればよいとまで述べている。

 この要件の下では、例えばA乃至Cステップからなるある物の製造方法について権利が付与されている際に、本来A乃至Cステップの全てを被告が実施すべきであるところ、被告の管理または指示下で、第3者がCステップを被告に成り代わって実行した場合にのみ直接侵害(米国特許法第271条(a)*4)が成立するといえる。

 逆に本事件の如く被告の成り代わりとまで言えない場合、すなわち被告と第3者との役割分担が明確となっている場合は、たとえ被告が、第3者に侵害を手助けさせるべく管理・指示していたとしても侵害の責を負わないことになる。

 米国特許法第271条(b)(C)*5に規定する寄与侵害(間接侵害)の適用も考えられるが、米国では本事件の如く直接侵害が成立しない以上、寄与侵害は成立しない*6

 本事件により生じる問題は、クレーム作成の際に注意することで回避することができる。例えば、「ユーザが情報を入力するステップ」をクレームに記載する代わりに、「サーバが情報を受け付けるステップ」とする等、サーバ側の視点に立ったクレームを記載する。こうして、第3者の行為をクレームから徹底的に排除する。また、方法クレームだけではなく、サーバ、すなわち装置クレームも第3者の行為を排除した上で作成することが必要であろう。

 なお、紙面の都合上割愛したが、099特許のクレーム1が、自明か否か(米国特許法第103条*7)も争点の一つとなった。KSR最高裁判決*8が引用され、クレーム1は自明であると判断された。IT関連発明において、組み合わせが自明か否かを議論した判決であり、自明性の面においても本事件は参考となる判決である。

判決 2008年7月14日
以 上
【関連事項】
判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができます[PDFファイル]。 http://www.cafc.uscourts.gov/opinions/07-1485.pdf

【注釈】
*1 BMC Resources, Inc. v. Paymentech, L.P., 498 F.3d 1373, 1380–81 (Fed. Cir. 2007).
 詳細は、拙稿、「ビジネスモデルと特許侵害」、知財ぷりずむ、財団法人経済産業調査会、平成19年12月号参照
http://www.knpt.com/contents/cafc/2007.1120/2007.1120.html
*2 Muniauction, Inc. v. Thomson Corp., 502 F. Supp. 2d 477 (W.D. Pa. 2007).
*3 099特許のクレーム1及び2は以下のとおり
1. In an electronic auction system including an issuer's computer having a display and at least one bidder's computer having an input device and a display, said bidder's computer being located remotely from said issuer's computer, said computers being coupled to at least one electronic network for communicating data messages between said computers, an electronic auctioning process for auctioning fixed income financial instruments comprising:
inputting data associated with at least one bid for at least one fixed income financial instrument into said bidder's computer via said input device;
automatically computing at least one interest cost value based at least in part on said inputted data, said automatically computed interest cost value specifying a rate representing borrowing cost associated with said at least one fixed income financial instrument;
submitting said bid by transmitting at least some of said inputted data from said bidder's computer over said at least one electronic network; and
communicating at least one message associated with said submitted bid to said issuer's computer over said at least one electronic network and displaying, on said issuer's computer display, information associated with said bid including said computed interest cost value,
wherein at least one of the inputting step, the automatically computing step, the submitting step, the communicating step and the displaying step is performed using a web browser.
2. The process of claim 1 additionally comprising the step of verifying that each bid is in conformance with predetermined bid parameters before accepting said bid.
*4 米国特許法第271条(a)は以下のとおり
(a) 本法に別段の定めがある場合を除き,特許の存続期間中に,権限を有することなく,特許発明を合衆国において生産,使用,販売の申出若しくは販売する者,又は特許発明を合衆国に輸入する者は特許を侵害する。
特許庁HP
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/s_sonota/fips/mokuji.htm
*5 米国特許法第271条(b)(c)は以下のとおり
(b) 積極的に特許侵害を誘発した者は,侵害者としての責めを負うものとする。
(c) 特許を受けている機械,製品,組立物若しくは合成物の構成要素,又は特許方法を実施するために使用される材料若しくは装置であって,その発明の主要部分を構成しているものについて,それらが当該特許の侵害に使用するために特別に製造若しくは改造されたものであり,かつ,一般的市販品若しくは基本的には侵害しない使用に適した取引商品でないことを知りながら,合衆国において販売の申出若しくは販売し,又は合衆国に輸入した者は,寄与侵害者としての責めを負うものとする。前掲特許庁HP
*6 Aro Mfg. Co. v. Convertible Top Replacement Co., 365 U.S. 336 (1961)
*7 米国特許法第103条は以下のとおり
(a) 発明が,同一のものとしては第102 条に規定した開示又は記載がされていない場合であっても,特許を受けようとするその主題と先行技術との間の差異が,発明が行われた時点でその主題が全体として,当該主題が属する技術の分野において通常の知識を有する者にとって自明であるような差異であるときは,特許を受けることができない。
*8 KSR Int’l Co. v. Teleflex, Inc., 127 S. Ct. 1727, 1742 (2007)

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