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均等論におけるFunction-Way-Result Test

~均等論のFunctionと特許表示~

Crown Packaging Tech., Inc., et al.,
Plaintiffs-Appellants,
v.
Rexam Beverage Can Co.,
Defendant-Cross Appellant.

執筆者 弁理士 河野英仁
2009年5月8日

1.概要
(1)特許権侵害の判断にあたってはクレームに記載された文言どおりに解釈するのが原則である。しかしながら、文言解釈を厳格に適用した場合、文言に合致しない迂回技術を採用することで第3者が容易に特許の網をすり抜けることができてしまう。

 このような不合理を回避するために、クレームの文言に加え、これと均等な範囲にまで権利範囲を拡張する均等論が存在する。米国においては、クレームされた発明とイ号製品との間の相違が非本質的である場合に均等と判断される*1。具体的な均等の判断手法の一つとしてFunction-Way-Resultテスト(以下、FWRテストという)が知られている。

 FWRテストとはイ号製品が、クレームされた発明に対し、実質的に同一の機能(Function)を果たし、同一の方法(Way)で、同一の効果(Result)をもたらす場合に均等と判断する手法である*2。本事件ではイ号製品とクレームされた発明とが同一の機能を果たす一方で、クレームされた発明はイ号製品とは異なる2つの機能をも果たすと被告が主張した。

 地裁はクレームされた発明が、イ号製品にない他の機能をも果たすことから均等論上非侵害と判断した*3。原告はこれを不服としてCAFCへ控訴した。CAFCは被告が主張した2つの機能に係る証拠が不十分であるとして地裁の判決を無効とした。 (2)米国特許法287条(a)は特許権者に特許番号を含む特許表示を行うことを要求しており、これを怠った場合、特許権者は、侵害者に通知を行う以前の侵害行為に基づく損害賠償を請求できなくなる。

 特許法第287条(a)は物のクレームに対して適用され、方法のクレームに対しては適用されない。本事件において特許は物のクレームと方法のクレームとの双方を含んでいるところ、特許権者は方法のクレームのみに基づいて特許権侵害を主張した。地裁は、特許権者が主張したのは方法クレームであるものの、特許は物のクレームを含んでおり、かつ特許権者が販売する装置になんら特許表示を行っていなかったことから、特許法第287条(a)の規定により損害賠償は認められないと判断した*4

 CAFCは、たとえ特許が方法及び物の双方のクレームを含んでいようが、方法クレームのみを権利侵害として主張する場合は、特許表示は不要であり、米国特許法第287条(a)は適用されないと判示した。


2.背景
 Crown(以下、原告という)は飲料水用の缶蓋に関するU.S. Patent No. 6,935,826(以下、826特許という)を所有している。826特許は缶蓋、及び、缶蓋と缶本体とを固定する方法をクレームしている。図1は826特許の缶蓋を示す断面図である。


826特許の缶蓋を示す断面図
図1 826特許の缶蓋を示す断面図


 缶蓋22はセンターパネル26、環状補強ビード(Bead:数珠玉)25、チャックウォール24及びカバーフック23を含む。飲料水業者は缶本体12に飲料を充填する。その後缶本体12のフランジ11と缶蓋22のカバーフック23とを重ね合わせた上で、斜線で示すチャック30を上側から押しつけることにより缶本体12と缶蓋22とを接合する。

 その後、密封処理を行う。図2は密封処理の遷移を示す断面図である。


密封処理の遷移を示す断面図
図2 密封処理の遷移を示す断面図


 第1ロール34を回転させつつ缶本体12の左側面から押し込むことにより、カバーフック23及びフランジ11を下方へ折り曲げる。同様に、第2ロール38を回転させつつ缶本体12の右側面から押し込むことにより、カバーフック23及びフランジ11を下方へ折り曲げる。これにより、密閉処理が完了する。

 原告は「Superend」と称する商品名で当該缶蓋を販売した。826特許に係る缶蓋23は従来よりも密閉性が高いため缶の厚みを薄くすることができる。缶の材料費を大幅に低減することができるため、826特許に係る製品の需要が増大した。

 被告は原告と競業関係にあり、「Rexam End」と称する缶蓋(以下、イ号製品という)を製造販売している。原告は、2005年8月18日、826特許を侵害するとして、デラウェア連邦地方裁判所に訴訟を提起した。原告は被告が826特許のクレーム14を均等論上侵害していると主張した。なお、クレーム14は独立クレーム13の従属クレームであり、被告は独立クレーム13の侵害については認めている。

 これに対し、被告は、原告の使用する缶蓋密閉装置が、被告が所有するU.S. Patent No. 4,774,839(以下、839特許という)を侵害するとして反訴した。839特許は缶蓋の密閉方法及び密閉装置をクレームしている。被告は、原告の特許権侵害行為に基づく損害賠償を求めた。原告は特許権を侵害することは認めたが、被告製品に特許表示がなかったことから、米国特許法第287条(a)の規定に基づき、損害賠償責任を負わないと反論した。


地裁の判決を示す説明図
図3 地裁の判決を示す説明図


 図3に地裁の判決をまとめた。地裁は826特許の均等論上の侵害を主張する原告の主張を退けた(図3A)。また地裁は被告が特許製品への特許表示を怠ったことを理由に、原告に対する損害賠償は認められないとの判決をなした(図3B)。原告は均等論上非侵害とした地裁の判決を不服としてCAFCへ控訴した。また被告は、特許表示がないことを理由に損害賠償を否定した地裁の判決を不服としてCAFCへ控訴した。


3.CAFCでの争点
(1)争点1:複数の機能が存在する場合、均等論をどのように適用するか?
 原告は、839特許従属クレーム14は以下のとおりである。なお、被告が特許権侵害を認めた独立クレーム13は注釈欄に原文を記した*5

クレーム14
クレーム13の缶蓋22であり、
前記第2ポイントにて前記壁24に接続される環状補強ビード25(annular reinforcing bead)をさらに含み、前記環状補強ビード25は前記壁24を前記センターパネル26に結びつける。


 なお、符号は筆者において追記した。図4は被告イ号製品の要部を示す断面図及び拡大図である。図5はクレーム14の環状補強ビード25の断面図及び拡大図である。


被告イ号製品の要部を示す断面図及び拡大図
図4 被告イ号製品の要部を示す断面図及び拡大図

クレーム14の環状補強ビード25の断面図及び拡大図
図5 クレーム14の環状補強ビード25の断面図及び拡大図


 図5に示す如くクレーム14の環状補強ビードは下向きに突出しており、壁24とセンターパネル26とを結びつけるものである。これに対し、イ号製品の折り曲げ部(fold)は図4に示す如く、壁とセンターパネルとの間に存在するものの、壁とセンターパネルとは直接結びついている。

 原告はイ号製品がクレーム14の文言上の侵害とならないことから、均等論上の侵害を主張した。原告の専門家証人は、環状補強ビード25は、密閉する缶蓋の圧力抵抗を増加させる機能(以下、第1機能)を発揮すると主張した。被告は環状補強ビード25及びイ号製品も当該第1機能を発揮することを認めた。

 しかしながら、被告は、環状補強ビード25はさらに、缶蓋22のセンターパネル26を支持する機能(以下、第2機能)、及び、密閉用チャック30が上側から入り込む開口を提供する機能(以下、第3機能)を発揮すると主張した。被告イ号製品は第2機能及び第3機能を発揮しないことからFWRテストにいう「機能」要件を満たさないと反論し、地裁も当該被告の主張を認めた。

 このように、均等論のFWRテストにおいて、イ号製品が一部の機能を発揮するものの、他の機能を発揮しない場合に、均等といえるか否かが争点となった。

(2)争点2:方法クレーム及び装置クレームが存在し、方法クレームだけを権利侵害と主張する場合に、特許表示が必要か?
 特許表示は米国特有の規定である。特許物品には「patent」の表示及び対応する特許番号を付することが必要とされている。これは第3者に特許物品であることを通知することにより、未然に特許権侵害を防止せんとするものである。特許表示を怠った場合、制裁として、特許権者は侵害訴訟において損害賠償を受けることができなくなる。

 ただし、特許権侵害であることを通知した後は通知後の行為については損害賠償を得ることができる。一つの製品には数多くの特許が成立しており、番号を逐次特許物品に記載することは大きな負担となるため、実務上は特許表示を行っていないケースが多い。米国特許法第287条(a)は以下のとおり規定している。

第287 条 損害賠償及びその他の救済に関する制限;特許表示及び通知
(a) 特許権者,及び特許権者のために若しくはその指示に基づいて,合衆国において特許物品を製造,販売の申出若しくは販売する者,又は特許物品を合衆国に輸入する者は,その物品に「patent」という文字若しくはその略語「pat.」を特許番号を付して貼付することによって,又は物品の性質上,そのようにすることが不可能な場合は,当該物品若しくは当該物品の1 又は2 以上が入っている包装に同様の通知を記載したラベルを付着させることによって,当該物品が特許を受けていることを公衆に通知をすることができる。そのような表示をしなかった場合は,特許権者は侵害訴訟によって損害賠償を受けることができない。ただし,侵害者が侵害について通知を受けており,その後,侵害を継続したことが証明された場合は,当該通知の後に生じた侵害に対してのみ,損害賠償を得ることができる。侵害訴訟の提起は,当該通知を構成するものとする*6


 米国特許法第287条(a)は特許物品について特許表示を推奨する旨を規定しており、特許方法については規定していない。方法の発明については番号の記載、または、ラベル等の添付が不可能だからである。

 本事件では被告839特許は方法クレーム及び装置クレームの双方を含んでいた。被告は方法クレームのみを特許権侵害であるとして原告を訴え損害賠償を求めた。ところが、被告が使用する特許製品には特許表示がなされていなかった。このような状況下で、損害賠償が認められるか否かが争点となった。


4.CAFCの判断
(1)争点1: 被告が主張する機能に関する証拠が提供されていない
 CAFCは、被告弁護士が第2機能及び第3機能を主張したものの何ら現実の証拠が提出されていないことから、環状補強ビード25について「重要事実に関する真正な争点(genuine issue of material fact)」の存在を理由に、再度地裁にて審理を行うよう命じた。

 原告専門家は、環状補強ビード25が、密閉する缶蓋の圧力抵抗を増加させる機能(第1機能)を発揮することを立証した。第1機能に関しては被告専門家も第1機能を発揮することを認めている。

 原告は、環状補強ビード25が第1機能のみを発揮すると主張したところ、被告は環状補強ビード25がさらに第2機能及び第3機能を発揮すると主張した。そして、イ号製品は第2機能及び第3機能を発揮しないことから、地裁が判示したとおり均等論上非侵害であると主張した。

 しかし、第2機能及び第3機能は被告弁護士による主張があっただけであり、何ら現実の証拠が提出されていない。当事者間でFWRテストにおける共通の第1機能を発揮するにもかかわらず、現実の証拠がない第2及び第3機能をもって均等論上非侵害とすることは妥当でないことから、CAFCは地裁の判決を無効とし、再度審理を行うよう命じた。

(2)争点2:方法クレームのみを権利侵害として主張する場合は、特許クレームの種別にかかわらず特許表示は不要である。
 CAFCは方法クレーム及び装置クレームが存在している場合でも、方法クレームのみを主張する場合は、特許製品に特許表示がなくとも、損害賠償は認められると判示した。

 CAFCは、特許表示規定の目的は、公衆に対し特許の存在を通知することを特許権者に奨励することにあり、また、特許表示規定が方法クレームに適用されない理由は、特許クレームが方法またはプロセスのみである場合に特許表示するところがないからと述べた上で、過去の判例を挙げた。

 American Medical System事件*7においては、方法クレーム及び装置クレームが特許に存在しており、特許権者はクレームされた方法による物理的な装置に特許表示を行っていなかった。このような状況下で、特許権者は、方法クレーム及び装置クレームの双方に基づいて特許権侵害を主張した。CAFCは、方法クレームに関し警告以前の損害賠償を得るためには、当該装置に特許表示を行わなければならないと判示した。

 またHanson事件*8においても、同様に方法クレーム及び装置クレームの双方が特許に存在しており、特許権者は装置に特許表示を行っていなかった。このような状況下で、特許権者は方法クレーム及び装置クレームの双方に基づいて特許権侵害を主張した。審理を進めた結果装置クレームに対しては非侵害、方法クレームのみが侵害と判断された。この場合、CAFCは装置に特許表示がなくとも方法クレームに基づき損害賠償を認めると判示した。

 以上のことから、本事件においてCAFCは当初から方法クレームのみを権利侵害として主張した場合は、Hanson事件に従い、特許に方法クレーム及び装置クレームの双方が含まれている場合でも損害賠償が認められると判示した。


5.結論
 CAFCは、均等論上非侵害と判断した地裁の判決を無効とし、機能に関し再度審理を行うよう地裁に命じた。またCAFCは特許表示を怠ったことに起因して損害賠償を認めなかった地裁の判決を無効とした。


6.コメント
 均等論のFWRテストにおける機能について議論された案件であり参考となる事件である。本事件の如く、イ号製品が特許発明と同一の機能を発揮するが、特許発明が発揮する他の機能をイ号製品が発揮しない場合に、均等といえるか否かが問題となる。

 本判決では複数の機能が存在する場合の均等の判断について明確な回答が示されていない。今後地裁での差し戻し審において、明確になるものと思われる。筆者は特許発明が発揮する複数の機能の内、最も重要な機能が、均等物において発揮する以上、他の機能の有無にかかわらず均等と判断すべきと考える。そうでなければ、キーとなる機能を同様に発揮しているにもかかわらず、些細な機能の相違を主張するだけで、均等侵害を回避することが可能となるからである。

 損害賠償を制限する特許表示規定は日本に存在しないため、軽視しがちであるが、米国では損害賠償額が巨額であることから、米国特許法287条(a)の適用を巡り頻繁に争われている。米国特許法第287条(a)は本事件の争点に関連する事項に関し、なんら規定しておらず、判例を理解しておくことが重要となる。

 実務上はあらゆる侵害形態を考慮して、方法クレーム及び装置クレームの他、記録媒体クレーム、システムクレーム等を記載する。本事件で判示された如く、複数のカテゴリーについてクレームしている場合でも、方法クレームに関して侵害が成立することを立証できれば、米国特許法第287条(a)の規定にかかわらず損害賠償が認められる。その意味でも、方法クレームを権利化しておく意義は大きいといえる。

判決 2009年3月17日
以上
【関連事項】
判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができます[PDFファイル]。
http://www.cafc.uscourts.gov/opinions/08-1284.pdf

【注釈】
*1 Graver Tank & Mfg. Co. v. Linde Air Prods. Co., 339 U.S. 605, 608 (1950)
*2 Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chem. Co., 520 U.S. 17, 39–40 (1997)
*3 Crown Packaging Tech., Inc. v. Rexam Beverage Can Co., 531 F. Supp. 2d 629 (D. Del. 2008)
*4 Crown Packaging Tech., Inc. v. Rexam Beverage Can Co., 498 F. Supp. 2d 718 (D. Del. 2007)
*5 クレーム13及び14は以下のとおり。
13. A metal can end for use in packaging beverages under pressure and adapted to be joined to a can body by a seaming process so as to form a double seam therewith using a rotatable chuck comprising first and second circumferentially extending walls, said first and second chuck walls forming a juncture there between, said can end comprising;
a peripheral cover hook, said peripheral cover hook comprising a seaming panel adapted to be formed into a portion of said double seam during said seaming operation;
a central panel;
a wall extending inwardly and downwardly from said cover hook, a first portion of said wall extending from said cover hook to a first point on said wall, said first wall portion adapted to be deformed during said seaming operation so as to be bent upwardly around said juncture of said chuck walls at said first point on said wall, a second portion of said wall extending from said first point to a second point forming a lowermost end of said wall, a line extending between said first and second points being inclined to an axis perpendicular to said central panel at an angle of between 30° and 60°.
14. The end according to claim 13, further comprising an annular reinforcing bead connected to said wall at said second point, said annular reinforcing bead connecting said wall to said central panel.
*6 特許庁HP
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/s_sonota/fips/mokuji.htm
*7 American Medical Systems, Inc. v. Medical Engineering Corp., 6 F.3d 1523 (Fed. Cir. 1993)
*8 Hanson v. Alpine Valley Ski Area, Inc., 718 F.2d 1075 (Fed. Cir. 1983)

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