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特許権存続期間の調整規定の解釈

~延長期間の計算方法について明確な基準が判示される~

Wyeth and Elan Pharma International Limited,
Plaintiffs- Appellees,
v.
David J. Kappos,
Defendant- Appellant.

執筆者 弁理士 河野英仁
2010年2月10日

1.概要
 1996年の米国特許法改正により、特許権の存続期間は特許発行日から17年とする規定は削除され、出願日から20年と改正された*1。出願日から20年の場合、審査の遅延により特許の有効期間が短くなる恐れがある。

 そのため1999年、存続期間の調整に関する米国特許法第154条(b)が新設された。存続期間の調整は、主に米国特許商標庁(以下、USPTOという)の迅速に応答しなかったことに起因する遅延、または、出願係属期間が3年を超えた場合の遅延により調整される。

 複数の遅延が存在し遅延期間が相互に重複する場合、重複期間の調整が必要となる。重複調整に係る規定は米国特許法及び規則に形式的に存在するのみで、具体的な取り扱いについては全く規定されていなかった。

 原告は重複した際のUSPTOの存続期間計算方法に誤りがあるとして、コロンビア特別区連邦地方裁判所に提訴した。地裁はUSPTOの計算方法に誤りがあると判断し、原告の主張する存続期間計算方法を認めた*2。USPTOはCAFCへ控訴したが、CAFCはUSPTOの計算方法は米国特許法の規定に反するとして、地裁の判断を維持する判決をなした。


2.背景
 特許権の存続期間は、出願日から20年と米国特許法第154条(a)に規定されている。審査の遅延に伴う特許権存続期間を権利者に保証すべく、米国特許法第154条(b)が新設された。米国特許法第154条(b)の規定は以下のとおりである。

米国特許法第154条(b)(1)
(b) 特許存続期間の調整
(1) 特許存続期間についての保証
(A) 特許商標庁による迅速な応答の保証
(2)に基づく制限に従うことを条件として,原特許の発行が特許商標庁による次の行為の不履行のために遅延した場合は,その特許の存続期間は,個々の事情に応じ,(i),(ii),(iii)又は(iv)に規定した期間の終了から当該各段落に記載した措置が取られるまでの各1日につき1日延長される。
(i) 第132条に基づく通知の内の少なくとも1,又は第151条に基づく許可通知を,次の日から14月以内に与えること
(I) 第111条(a)に基づいて出願がされた日,又は
(II) 国際出願が第371条の要件を満たした日
(ii) 第132条に基づく返答,又は第134条に基づいてされた審判請求に対し,当該返答が提出された又は当該審判請求が行われた日の翌日から4月以内に応答すること
(iii) 許可することができるクレームが出願中に残存している場合において,第134条若しくは第135条に基づく特許審判インターフェアレンス部の決定又は第141条,第145条若しくは第146条に基づく連邦裁判所の決定の日の翌日から4月以内に,出願に関して行為すること,又は
(iv) 第151条に基づいて発行手数料が納付され,かつ,他の全ての未解決要件が満たされた日の翌日から4月以内に特許を発行すること
(B) 出願係属期間3年以下の保証
(2)に基づく制限に従うことを条件として,原特許の発行が,合衆国特許商標庁が合衆国における出願の実際の出願日から,次の事項を含めずに,3年以内に特許を発行しなかったために遅延した場合は,その特許の存続期間は,当該3年期間の終了から特許が発行されるまでの各1日につき1日延長される。
(i) 出願人が第132条(b)に基づいて請求する出願の継続審査によって消費された時間
(ii) 第135条(a)に基づく手続によって消費された時間,第181条に基づく命令の賦課によって消費された時間又は特許審判インターフェアレンス部若しくは連邦裁判所による審判請求・上訴の再審理によって消費された時間,又は
(iii) (3)(C)によって許可される場合を除き,出願人の請求に基づく合衆国特許商標庁による出願処理の延期
(C) インターフェアレンス,秘密保持命令及び審判請求・上訴による遅延に関連する保証又は調整
(2)に基づく制限に従うことを条件として,原特許証の発行が次の事項の何れかのために遅延した場合は,その特許の存続期間は,手続,命令又は場合により再審理の係属の日各1日につき1日延長される。
(i) 第135条(a)に基づく手続
(ii) 第181条に基づく命令の賦課,又は
(iii) 特許性を否定する裁決を覆す再審理における決定に基づいて特許証が発行された場合における特許審判インターフェアレンス部又は連邦裁判所による審判請求・上訴の再審理
(2) 制限
(A) 一般
(1)に定めた理由に起因する遅延期間が重複する場合は,本項に基づいて与えられる調整期間は,特許発行が遅延した実際の日数を超えないものとする。
(下線は筆者において付した。)


 同条は大きくパラグラフA、B、及び、Cの3つの期間調整に大別される。

(1)パラグラフA「USPTOの迅速な応答の保証」(以下、A保証またはA遅延という)
 A保証は、USPTOが(i)~(vi)に規定する一定の審査期間に合致しない場合に、処理の遅れにより1日ごとに特許存続期間を延長するものである。審査期間は例えば、ファーストオフィスアクション(以下、OAという)を14ヶ月以内とすることである。これにより「USPTOにOAの早期通知を促進させる」のである。

(2)パラグラフB「出願係属期間3年以下の保証」(以下、B保証またはB遅延という)
 B保証は、出願日から、3年以内に特許を発行しなかったために遅延した場合、特許期間を1日ごとに延長するものである。なお、パラグラフCはインターフェアランス手続き等に起因して遅延した場合の期間延長を規定するが、本事件ではA保証とB保証とが争点であるため、詳細な説明は省略する。

 同条パラグラフ2はA保証とB保証とが重複した場合の取り扱いについて規定している。

パラグラフ2
(1)に定めた理由に起因する遅延期間が重複する場合は,本項に基づいて与えられる調整期間は,特許発行が遅延した実際の日数を超えないものとする。


 Wyeth社(以下、原告という)はU.S Patent No. 7,179,892(892特許)及びNo. 7,189,819(819特許)の所有者である。892特許及び819特許は共に、アルツハイマー病治療に関する特許である。USPTOは892特許及び819特許の双方において、A遅延とB遅延との双方の審査遅延を引き起こした。

 出願人自身の行為に起因する遅延は、延長期間から短縮される。短縮に関する規定は米国特許法第154条(b)(2)(c)であり、規定内容は以下のとおりである。

154条(b)(2)
(C) 調整期間の短縮
(i) (1)に基づく特許存続期間の調整期間は,出願人が出願手続を終結させるための合理的な努力をしなかった期間に等しい期間が短縮されるものとする。


 USPTOはA遅延とB遅延とが重複する場合、いずれか長い方の遅延を延長期間として計算した。原告はUSPTOの延長期間の計算方法に誤りがあるとして、コロンビア特別区連邦地方裁判所へ提訴した。地裁は、USPTOの延長期間の計算方法に誤りがあるとの判決をなした。USPTOはこれを不服としてCAFCへ控訴した。


3.CAFCでの争点
重複した場合A遅延とB遅延とのいずれか長い方の遅延を用いるのが適切か?
 892特許に関し、USPTOは610日のA遅延、345日のB遅延を引き起こした。参考図1は、892特許の審査状況を示す説明図である。A遅延の610日の内、51日は出願後3年経過後に生じた。一方、審査過程において、出願人は自身の遅延により148日遅延を引き起こした。


892特許の審査状況を示す説明図

参考図1 892特許の審査状況を示す説明図


 ここで、USPTOはA遅延とB遅延とが重複する場合、いずれか長い方が計算に用いられると判断した。

 そして遅延期間を
長い方のA遅延610日-出願人遅延148日=462日
と計算した。

 一方、原告はB遅延の重複は出願から3年経過後のみを考慮すべきであると主張し、遅延期間を、
A遅延610日+B遅延345日-3年経過後遅延51日-出願人遅延148日=756日
と計算した。

 また、819特許に関し、USPTOは336日のA遅延、827日のB遅延を引き起こした。A遅延の336日の内、106日は出願後3年経過後に生じた。なお出願人自身の行為に起因する遅延は335日である。

 USPTOの計算方法に基づけば、遅延期間は、
長い方のB遅延827日-出願人遅延335日=492日となる。
 原告の計算方法に基づけば、遅延期間は、
A遅延336日+B遅延827日-3年経過後遅延106日-出願人遅延335日=722日
となる。

 米国特許法第154条に規定する期間延長は、USPTOの主張する方法により計算されるのか、原告主張の方法により計算されるのかが問題となった。


4.CAFCの判断
計算式は、
A遅延日+B遅延日-出願3年後のA遅延日-出願人による遅延日
である。

 CAFCは、米国特許法第154条(b)の規定に基づけば、B遅延は出願後3年経過後に開始するものであるから、重複した場合にA遅延またはB遅延のいずれか長い方を用いるUSPTOの計算方法は誤りであると判示した。

 参考図2はA保証及びB保証を示す説明図である。


A保証及びB保証を示す説明図

参考図2 A保証及びB保証を示す説明図


 A遅延は、USPTOの遅延により、サブパラグラフ(i)-(iv)に規定する期限のいずれか一つに合致した場合に開始する。そして、USPTOの遅延停止の措置がとられた場合に終了する。例えば、ファーストOAは14月以内に通知すべき旨規定されているが、14月を超えた場合にA遅延期間は開始し、その後ファーストOAが通知された時点で終了する。参考図1の上段に示すように、A遅延はUSPTOが特定された期限を経過した日から開始する。

 一方B遅延は、出願係属期間3年以下を保証するものである。参考図2の下側灰色矢印で示すとおり、B遅延は、USPTOが「合衆国における出願の実際の出願日から、3年以内に特許を発行」できなかった時から始まる。そして、B遅延は特許が発効された場合に終了する。このように、米国特許法第154条の規定に基づけば、B遅延の「遅延期間」は米国出願日から3年後に開始する。

 重複した際A遅延またはB遅延のいずれか長い方をのみを用いるUSPTOの計算方法では、A遅延が長いものとして採用された場合、本来出願3年経過後に初めて計数されるB遅延が、遅延が生じ得ない3年経過前から遅延期間が計数されることになる。CAFCはUSPTOの解釈では、明らかに米国特許法第154条の規定に反することから、原告が主張した計算方法が正しいと判示した。

すなわち、A遅延とB遅延とに重複がある場合、遅延期間は
A遅延日+B遅延日-出願から3年後のA遅延日-出願人による遅延日 となる。


5.結論
 CAFCは、A遅延またはB遅延のいずれか長い方を採用するUSPTOの主張を退け、原告の計算方法が正しいとした地裁の判決を維持した。


6.コメント
 米国特許法の条文解釈に係る重要判例であるため紹介させていただいた。USPTOは本判決を受けて速やかに存続期間計算用のプログラムを修正すると発表した。USPTOによれば、2010年3月2日頃までにはプログラムの修正が完了するとのことである。

 USPTOは特許の発行が2010年3月2日以前であり、かつ、特許発行後180日以内に請求を行った特許権者からの再計算請求を無料で処理すると発表している*3。なお、この再計算請求は、本事件と同様の誤計算があったものに限られる。
 従って、2010年3月2日までに発行された特許であり、発行後180日以内である特許であり、かつ、Wyeth事件と同様の計算ミスがある特許(少なくとも米国特許出願日から3年経過後に発行されている特許)である場合、特許の重要性に応じて早めに再計算請求を行うことが好ましい。特許発行後6ヶ月以内に、当該特許が20年以上も存続期間が必要か否かの判断は難しいが、特許の重要度・事業の将来性に応じて適切な対策を施すべきであろう。

判決 2010年1月7日
以上
【関連事項】
判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができます[PDFファイル]。
http://www.cafc.uscourts.gov/opinions/09-1120.pdf

【注釈】
*1 存続期間は米国特許法第154条(2)に規定されている。
(2) 存続期間
本法に基づく手数料の納付を条件として,当該付与は,特許の発行日に始まり,合衆国において特許出願がされた日から,又は,その出願が第120 条,第121 条若しくは第365 条(c)に基づき,先に提出された1 又は2 以上の出願についての明示の言及を含んでいる場合は,それらの内の最先の出願がされた日から20 年が終了する期間を対象とする。
 特許庁HP
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/s_sonota/fips/mokuji.htm
*2 Wyeth v. Dudas, 580 F. Supp. 2d 138, 141 (D.D.C. 2008)
*3 USPTO発表資料
http://www.uspto.gov/news/pr/2010/10_06.jsp

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