共同研究の成果は特許権で保護することができますが、必ずしも思い通りに実施(製造・販売)できるとは限りません。では、どのような点に留意すべきでしょうか。
☆特許権の共有
共同研究のパートナーは、共同研究成果を共同で特許出願することによって、共有の特許権を取得することができます。特許権の共有者は、契約で「
別段の定め」をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができます。従って、「別段の定め」をしなければ問題が無いようにも思えます。ところが、「別段の定め」が無かったために、思わぬ紛争に発展するケースがあります。
☆共同研究成果の実施が問題になるケース
例えば、部品メーカA社と、家電メーカB社が部品αを共同開発し、共有の特許を取得したとします。このケースでは、B社がA社から部品αを購入し、B社はその部品αを組み込んだ家電を製造販売する実施形態が想定されます。契約で「別段の定め」をしていない場合、A社、B社は共に部品αを自由に製造販売できます。通常、家電メーカB社に部品αの製造能力は無いと考えられますが、B社が他の下請け部品メーカC社に部品αを製造させる可能性があります。もちろん、無権利者のC社は部品αを製造販売できませんが、一定の条件(※1)を満たした場合、C社はA社と同視し得る「一機関」と解釈され、部品αを製造することが許されます。こうなると、A社は研究開発費用を十分に回収できず、部品αの実施方法を巡り、思わぬ紛争に発展するケースがあります。
一方、A社、B社が家電βを共同開発し、共有の特許を取得した場合、A社、B社は共に家電βを自由に製造販売できます。しかし、A社は通常、家電βを製造する能力を有しておらず、研究開発費用を十分に回収できません。このため、家電βの実施で得た利益を巡り紛争に発展するケースがあります。
※1 @B社・C社との間に工賃を支払って製造する旨の契約が存在すること。A材料購入や製品の実施、品質についてB社が指揮監督していること。BC社の製品を全てB社に引き渡し、他の第三者へ譲渡していないこと。
☆別段の定め
事後的に利害関係を調整することは困難であり、このような事態に陥らないためにも、共同研究開始前に「別段の定め」を十分に検討する必要があります。例えば、「B社は共同研究終了後2年間、A社以外の者から部品αの供給を受けないものとする」旨の契約、「特許発明を実施しない相手方に一定のロイヤルティーを支払う」旨のいわゆる不実施補償契約を定めることができなきないか等、検討する必要があります。
◆ 共同研究成果の法的取り扱いについては、河野特許事務所まで、お気軽にご相談ください。
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