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ベンチャー企業社長のための知的財産基礎講座

(第1回 商標編)


2009.7.1 河野 英仁

 「貴社がWebサイト内で使用されているロゴは当社所有の商標権を侵害しています。」「貴社が製造・販売されている○○製品は当社特許権を侵害しています。」「貴社より誠意ある回答がない場合はやむを得ず法的措置を講じます。」
 知的財産権について無頓着ですと、このような警告書が弁護士または弁理士から社長宛へ送付されてきます。警告後訴訟が提起された場合、ロゴの使用差し止め、製品の製造販売差し止め、さらには損害賠償責任を負うことになります。このような事態を回避するため、社長として最低限知っておきたい知的財産権法について説明します。

 1.知的財産権とは?
 知的財産権とは第1図にあるように、特許権及び著作権など、知的創造によって創作されたそれ自体は無形の財産をいいます。知的財産権の内、特許権、実用新案権、意匠権及び商標権の4つの権利は、特許庁が所管し、産業財産権と総称されます。


第1図 知的財産権の種類(特許庁資料より)



 特許及び商標などは特許庁に対する出願及び審査を経て初めて独占排他的な権利が発生します。その一方で、著作権及び営業秘密などは特段申請することなく権利が発生します。各権利の詳しい解説は他の専門書に委ねることし、社長がビジネスを行う上で、避けて通ることができない商標権を第1回にて、特許権を第2回にて説明します。

 2.商標とは?
 あらゆるビジネスを開始する上で、社名、商品名及びサービス名が重要になることはいうまでもありません。商標は特定の商品またはサービスに使用する文字または図形等をいいます。例えば文字であればトヨタ自動車の「TOYOTA」、「LEXUS」、図形であればルイ・ヴィトン社の「LV」マークが例に挙げられます。その他、ケンタッキーフライチキンのカーネルサンダース人形のような立体的形状も商標として認められています。商標はユーザが商品またはサービスを選択する際の目印となるものであり、継続して使用することで経済的価値が上昇します。

 商標登録出願
 商標は特許庁に対し商標登録出願を行うことで独占排他的な商標権を取得することができます。出願に際しては、使用する文字、またはロゴを特定すると共に、当該商標をどのような商品・サービスに使用するか特定する必要があります。例えば商品「自動車」、「鞄」に使用するのか、サービス「自動車の修理」、「書籍の製作」、「企業の経営管理に関するコンサルティング」に使用するのか等具体的に特定する必要があります。

 審査の流れ
 出願したからといってすぐに登録されることはなく特許庁審査官による審査を経て、法定の要件を満たした場合に、商標登録されます。通常は半年から1年程度期間を要します。商標がありふれた名称である場合、他人の商標と類似する商標である場合、または、品質誤認を生じる商標である場合等は登録を受けることができません。
 何がありふれた名称かは使用する商品の種類によります。例えば石油会社シェルの貝のマークは商品「石油」に使用するからこそ識別力を有しますが、この貝のマークが漁業に用いられた場合、識別力がないものとして登録を受けることができないでしょう。
 審査官は登録が認められないと判断した場合、拒絶理由を通知します。弁理士はこれを受けて意見書及び補正書を提出し、反論を行います。審査官は拒絶理由が解消したと判断した場合、商標権を付与します。

 権利取得後は?
 商標権が発生した場合、第3者の紛らわしい商標の無断使用を排除することができます。第3者が無断で使用した場合、差し止め請求権及び損害賠償請求権を行使することができます。商標権の存続期間は10年ですが、費用を支払い、更新を繰り返すことで永続的に権利を所有することができます。なお、10年分を一括納付するのではなく、5年毎の分割納付も可能です。

 チェックポイント
 第2図に商標に関するチェックポイントをまとめます。上述しましたように、商標登録出願から登録までは専門的知識が必要となるほか、多くの手間がかかります。その際、事件を弁理士に依頼すると良いでしょう。商標に関するコンサルティング及び特許庁に対する手続を忙しい社長に代わって代理します。

第2図 商標に関するチェックポイント
1.□事件を依頼できる弁理士を確保しているか?
2.□新規事業立ち上げ前に、他社の先行登録商標について十分な調査を行ったか?
3.□社名、商品名、サービス名について商標登録出願が完了しているか?
4.□商標権のメンテナンスができているか?

 チェックポイント2に記載しましたように、新規事業を立ち上げ、ある商品名・ロゴを使用する場合、他社の先行登録商標について慎重に調査を行う必要があります。同一の商品名・ロゴについて他社が既に商標権を取得していた場合、商標権侵害の問題が発生します。調査は特許庁電子図書館のホームページで行うことができます。ただし、他社の商標と類似するか否か、識別力があるのか否か、その判断が困難な場合があります。その際弁理士のアドバイスを受けると良いでしょう。
 出願前の調査を経て登録の可能性が高ければ、商標登録出願及び各種手続を弁理士に委任し、自社の商品名・サービス名について権利化を図ります(チェックポイント3)。以上のルーチンを繰り返すことで、商標権という無体の財産が会社の財産となります。将来、ビジネスを他社へ譲渡する場合はこれら商標権も会社の財産として高く評価されます。
 商標権は更新手続きさえ怠らなければ永久に所有することができます。きちんと管理することが必要です(チェックポイント4)。また、第3者が無断で使用していないかも十分モニタリングする必要があります。特に近年ではアジア各国からニセブランド商品が数多く輸入・販売されています。模倣行為には商標権に基づき毅然とした態度を示す必要があります。また事業を海外展開している場合は、外国においても国毎に権利化を図る必要があります。

 宅急便?着うた?
 めでたく商標登録を受けた場合、商標に®、または、「○○」の商標は「株式会社△△」の登録商標です、とWebサイト等に明記するようにしましょう。これにより安易な模倣を防止でき、また商標が普通名称化してしまうことも防止できます。「宅急便」、「着うた」が登録商標であることはご存じでしょうか。普段何気なく使われていることと思いますが、実はれっきとした登録商標なのです。普通名称と裁判所が認定した場合、権利行使ができなくなる虞があります。一般ユーザに登録商標であることの注意を喚起する必要があります。例えばマイクロソフト社のホームページをご覧下さい。登録商標がズラリと表示されています。

◆商標に関し、ご不明な点がございましたら河野特許事務所の弁理士にお気軽にお問い合わせ下さい。                    (第2回 特許編につづく)

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