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ベンチャー企業社長のための知的財産基礎講座
(第2回 特許編)
2009.8.1 河野 英仁
1.特許制度の概要
あるアイデアを完成した場合、特許庁に特許出願を行うことで特許権を取得することができます。特許出願に際してはアイデアを明細書に記載した上で、特許庁に提出します。特許庁の審査官は審査を行い、同様のアイデアが他に存在しなければ特許を付与します。特許権は出願の日から20年間存続します(一定条件下で、延長が認められます)。そもそも無形のアイデアを書面に記載する必要があり、また特許庁に対する手続も商標と比較して多大な労力を要します。高度な法律的知識及び技術的知識を有する弁理士に事件を依頼してください。
2.審査請求が必要
特許庁に対し、出願したからといって審査官は審査をしてくれません。所定の手数料の納付及び出願日から
3年以内に審査請求手続き
を行うことで初めて審査を行ってくれます。審査は主に新規性及び進歩性の2つを中心に行われます。既存の技術と同一のアイデアに権利が付与されては困ります。そのために新規性の要件が存在します。新規性のないアイデアは登録されません。また既存技術と同一ではないが、既存技術に対し容易に考えられる程度のアイデアは進歩性がないとして登録を受けることができません。実務上はこの
進歩性
が大きなハードルとなります。
3.出願前のWebサイト掲載、プレス発表は厳禁!
折角のアイデアも出願前にWebサイトに掲載したり、プレス発表した場合、その時点で
新規性を喪失し特許を受けることができなくなります。
ある程度アイデアが固まった段階で弁理士に相談してください。特許出願が完了した段階でWebサイトへの掲載、プレスへの発表を開始してください。近年社長自身のブログ、または社員のブログにて技術内容が漏洩するという問題が発生しています。出願前の技術内容については秘密厳守であることを社員、また社長自身がきちんと認識する必要があります。
4.ビジネス方法は特許になる?
「ビジネスモデル特許を申請したいのですが」、「ビジネス方法は特許になると聞いたのですが」等のご相談を良く受けます。純粋なビジネス方法自体は特許を取得することができませんが、コンピュータ等のハードウェア、IT技術を融合したビジネス方法であれば特許を取得することができます。例えば単なるオークション取引方法は特許の対象となりませんが、新規なIT技術を融合することでビジネス方法であっても特許を取得することができます。
2001年のビジネスモデル特許ブームと比較すると出願数は減少傾向にありますが、依然として年間約2000件のビジネス関連発明が出願されています(第1図参照)。諸外国でも同様の傾向にあります。ビジネスモデル特許発祥の地、米国では日本と比較して緩やかな基準にて数多くの特許を認めています。その一方で、欧州及び中国等は技術的特徴の必要性を強く要求しており、ビジネス方法の特許は認められにくい傾向にあります。
第1図 最近のビジネス方法特許出願動向
(特許庁HPより)
5.外国での権利化は?
企業の成長に伴い、外国での事業展開をも視野に入れなければなりません。当然外国でも特許を出願し権利化を図る必要があります。日本の特許と外国の特許とは無関係であり、国毎に権利化を図る必要があります。外国出願には2つのルートがあります。一つはパリ条約ルート、もう一つはPCTルートと呼ばれています。
パリ条約ルートは、日本の特許出願日から
1年以内
に、日本国特許出願を基礎としてパリ条約同盟国に直接特許出願を行うルートです。例えば、米国及び中国に出願する場合は、第2図に示しますように、日本出願の日から1年以内に、日本出願を基礎として米国及び中国へ特許出願を行います。この場合、米国及び中国の出願日は、日本の出願日まで遡るという利益を享受することができます。
第2図 パリ条約ルートによる出願
一方、PCTルートはパリ条約の特別規定として認められているものであり、出願を希望する国を指定し、指定国に対する国内出願の束としての効力を有する国際特許出願を行うルートをいいます。例えば、日本出願の日から1年以内に、日本出願を基礎とした国際特許出願を行います。国際特許出願を行う場合、権利化を希望する国を指定します。全てのPCT加盟国を指定することも可能です。そして日本出願の日から
2年6月以内に権利化を希望する国に国内移行手続き
を行います。この際、各国が要求する翻訳文等の提出が必要となります。なお、最初に日本出願を先に行ってから1年以内に国際特許出願を行う例を示しましたが、最初から国際特許出願を行うことも可能です。この場合、最初の国際特許出願の日から2年6月以内に国内移行の手続きが必要となります。
第3図 PCTルートによる出願
パリ条約ルート、PCTルートどちらを利用するのがベターかという問題が生じます。権利化を希望する国が既に決定しており、また国数が少ない場合はパリ条約ルートをお勧めします。国際特許出願手数料が不要となりコスト面で有利だからです。
一方、権利化を希望する国が明確でない場合、外国での事業化はまだ先であるが将来のために権利化しておきたい場合は、PCTルートをお勧めします。国際特許出願の段階で全ての加盟国を指定することができ、また翻訳文提出期間として2年6ヶ月もの猶予期間が与えられているからです。また国際特許出願を行った場合、サーチレポートが提示され、よく似た技術が他に存在するかを事前に知ることができます。
外国特許出願は費用が高額となるため弁理士とよく相談した上で最適なルートを選択するのが良いでしょう。
6.まとめ 商標・特許をビジネスにどう生かすか?〜知的武装の時代
事業に有用なアイデアであれば積極的に特許出願をすることが好ましいでしょう。他社が同じアイデアについて先に権利を押さえてしまう可能性があります。こうなるとビジネスが立ちゆかなくなるリスクが生じます。商標についても同じく他社商標権に十分注意すると共に、自社の商品名・ロゴについて商標登録出願を行い、積極的に権利化を図ります。
以上述べましたように、自社技術を守るアイデアを特許権にて、また、自社ブランド価値を高める商標権にて知的武装を行うことが企業戦略上求められます。知的財産権を確実に権利化していくことで企業の重要な財産権が蓄積されていきます。
◆特許及び商標に関し、ご不明な点がございましたら河野特許事務所の弁理士にお気軽にお問い合わせ下さい。
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