ソフトウェアの特許の事なら河野特許事務所

閉じる
一覧  |   トップ  


進歩性の判断は奥が深い?


2009.9.7 大堀 民夫

特許法では、新規な発明であっても公知の発明等に基づいて容易に発明できたものは進歩性がないとして特許されません。しかし、進歩性の判断は参照される公知文献等の範囲、公知文献等に記載されている発明(引用発明という)の認定、引用発明の組み合わせの可否等により異なるものになる可能性は否定できません。

■以下、特許庁の無効審判では進歩性が否定され、知財高裁で進歩性が認められて無効審決が取り消された一つの事例について概要を紹介します。

(1)本件発明
 本件は、燃料電池本体とセパレータとの間に介在させるシール材をセパレータに一体成形化するシール材の形成方法に関する発明であり、カーボングラファイト製のセパレータを用いる点と、セパレータの表面にスクリーン印刷によりゴム溶液を塗布して未架橋のゴム薄膜を形成する(ゴム薄膜は架橋処理されてセパレータに成形一体化される)点とに特徴がある。尚、審査ではこれらの特徴点の限定なしに特許が付与され、審判において限定する訂正がなされた。

(2)引用発明
 引用発明は、金属製のセパレータの表面に液状シリコーン樹脂を高圧及び高温条件で射出成形し(この過程でシリコーン樹脂が架橋処理される)、シリコーン樹脂層をセパレータの表面に成形一体化させる燃料電池用シール材の形成方法である。

(3)特許庁の判断
 審決では、燃料電池のセパレータとして金属製とカーボングラファイト製のいずれの材料も周知慣用のものであるので、薄膜のシール材を組み入れるときのシワ発生、薄膜同士の密着等の問題を解決できる引用発明のセパレータとして、金属製をカーボングラファイト製に置換することは容易に発明することができたと判断された。
 また、カーボングラファイト製セパレータが損傷し易いとしても、周知慣用のスクリーン印刷によりゴム溶液を塗布して成形一体化することは容易に発明できたと判断された。

(4)裁判所の判断
 引用発明が射出成形を前提とする以上、引用発明の金属製セパレータを機械的強度が低く脆いカーボングラファイト製に代える場合は、破損のおそれが大きく、技術的な障害(阻害要因という)があるので、引用発明にカーボングラファイト製セパレータを適用することは容易に発明できないと判断された。  また、引用発明において、金属製セパレータをカーボングラファイト製に置換することが容易でない以上、セパレータ材の金属製からカーボングラファイト製への置換と同時に、射出成形を周知のスクリーン印刷に置換することは容易に発明できないと判断された。

■阻害要因の有無を確認することは審査基準にも規定されていますが、本判決は、審判では阻害要因が認定されなかったのに対し、引用発明の開示範囲を限定的に解釈し、阻害要因を認め易くする判断を示した点で注目される判決と考えます。

■以上紹介しました進歩性の観点からの検討を含め、製品開発、技術開発の成果の権利化については当事務所にご相談下さい。

閉じる

Copyright 2009 KOHNO PATENT OFFICE