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出願済書類の取り扱いに注意を

〜「極秘」の記載だけで大丈夫か〜

2010.10.1 野口 富弘


 特許出願した発明に関する技術内容を協業関係にある業者に指示して発明を実施するケースがあります。技術内容を正確に伝えるために出願済書類が用いられることもあります。このような場合に、出願済書類(先願)の取り扱いに不備があると、先願に関連する後願の発明について特許を受けることができないおそれが生じます。そこで、一つの裁判例を通じて出願済書類の取り扱い上の留意点を紹介します。

(1) 事案の概要
 「ふぐの加工方法」に関する発明について特許出願(本件出願)をして特許を受けた被告の特許に対し、原告が新規性及び進歩性がないとして特許無効審判請求をしたところ、特許庁が請求不成立の審決をしたことから、原告がその取消しを求めた事案です(平成18年(行ケ)第10539号 審決取消請求事件)。
(2) 主な争点
 本件出願の先願に当たる出願済書類が訴外Cから訴外A宛にファックス送信され、さらにAから訴外B宛にファックス送信されたことにより、出願済書類の公知性が認められるか?
(3) 特許庁の判断
 ファックスされた出願済書類は、被告が加工業者Mに守秘義務を負わせて渡したものであり、出願済書類には、丸秘の表示と「極秘」である旨の記載が認められるから、発信者は守秘義務を課したと解すべきであり、出願済書類がどのような経緯でCに存在したかは定かでないものの、Cは守秘義務を負って出願済書類を入手していたと解することが自然である。また、Aは出願済書類をBへ転送した以外に、他の第三者に開示した事実は認められず、ファクシミリの転送には特段の意思表示がない限り守秘義務を課されていると解すべきとして、出願済書類の公知性を否定しました。
(4) 知財高裁の判断
 知財高裁は、Bは、Aから出願済書類を受領した当時、被告とは競業関係にあり、Bが被告との関係で、社会通念上ないし商習慣上、出願済書類に関し守秘義務を負う関係にあるとは認められないと判示し、出願済書類の公知性を肯定して原告の請求を認容しました。
(5) 留意点
 @特許出願後1年6月の間は出願公開されませんので、発明実施品の製造販売やカタログの発行などにより発明が開示されるような特段の事情がない限り、出願した発明を原則秘密にすることが必要です。先願発明に関連する特許出願を行った場合に、先願の出願済書類がすでに公知になっているときは、特許を受けることができないおそれがあるからです。また、出願公開時期が知られないように出願日を伏せることも大切です。
 A出願済書類等を用いて発明に関連する技術内容を関連会社や協業会社へ知らせる場合には、単に「極秘」である旨を記載するだけでは足らず、守秘義務を負う関係にあることを明確にしておく必要があります。例えば、事前に秘密保持契約を締結すること、出願済書類等に通し番号を付して管理すること、配布先を特定して管理すること、第三者への再頒布や開示を禁止することが重要です。

■ 特許出願に関するご相談は、お気軽に河野特許事務所までお問い合わせ下さい。

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