特許法では、公知技術等に基づいて容易に発明できたものは進歩性がないとして特許されません。しかし、進歩性の判断は公知文献等に記載された発明の認定及び周知技術・技術常識の適用により異なるものになります。
以下、特許庁の拒絶査定不服審判では周知技術・技術常識の適用により進歩性が否定され、知財高裁で審決が取り消された2つの事例を紹介します。
◆ 事例1.(詳細は知財高裁判決:平成19年(行ケ)10141号参照)
(1)本件発明 本件は、
車体要素の10kHz以上のバルク波(超音波)の横振動をセンサで検出し、検出された横振動に依存してエアバッグを制御する車両の乗員保護装置の発明です。
(2)引用発明 引用発明は、車両衝突時に検出される加速度に基づきエアバッグを制御する場合に、
超音波センサで車両衝突時に発生する超音波を検出すると加速度検出手段の感度を高める車両安全装置用制御装置です。
(3)特許庁の判断 審決では、検出される超音波が縦波であるか横波であるか等の記載がない
引用発明の超音波センサは技術常識(検出される超音波は横波成分を含む)に基づき横波成分を検出すると解され、検出周波数の下限を10kHzとする点に臨界的意義はなく、設計的事項であると判断されました。
(4)裁判所の判断
固体物質中を伝搬する音波に縦波と横波とがあり、衝突時に発生した横波が伝搬して検出されることは技術常識であるが、何れの波を検出するかは装置の目的によって選択されるものであるから、
横波と縦波とを含む超音波の検出信号から横波成分を分離するような場合は本件発明の
横振動を検出するセンサに相当せず、審決の判断は誤りとされました。
◆ 事例2.(詳細は知財高裁判決:平成21年(行ケ)10376号参照)
(1)本件発明 本件は、被検者の撮影部位を照射野ランプで確認し、第1のスイッチ操作によって撮影準備手段を動作させ、
撮影準備完了状態になると同時に、照射野ランプの点灯状態を変化させ、第2のスイッチ操作でX線撮影を行うX線撮影装置の発明です。
(2)引用発明 引用発明は、第1のスイッチ操作で撮影準備手段を動作させ、撮影準備完了状態になると撮影準備表示灯の点灯と共に
レーザー光の天井への照射を行い、第2のスイッチ操作でX線撮影するX線撮影装置です。
(3)特許庁の判断 審決では、
照射野ランプの点滅等によってX線撮影の作動状態を伝える周知技術を引用発明に適用し、撮影準備完了状態を伝えるレーザー光を照射野ランプに代えることに困難性はないと判断されました。
(4)裁判所の判断 照射野ランプを有しない引用発明に周知技術の照射野ランプを組み合わせることが容易であるとしても、
撮影準備完了状態を視認させる照射野ランプは周知技術ではなかったので、引用発明の
レーザー光を照射野ランプに代える構成は容易ではないと判断されました。
◆ 本事例から読み取れること
周知技術及び技術常識を十分に把握した上で出願すると共に、仮に審査等において周知技術又は技術常識が適用された場合は妥当性を検討して必要な反論を行うことが重要です。
■ 進歩性の観点を含め、製品・技術開発の成果の権利化については河野特許事務所までご相談下さい。
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