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特許出願中の発明のライセンス契約

〜補正によって生じる契約内容の解釈のずれ〜

2011.4.1 大竹 康友


ノウハウの開示及び設定登録後の補償金請求権の不行使等を目的として特許の出願中に実施許諾の契約が行われることがあります。そのような契約では、後の補正での減縮によって許諾製品が特許請求の範囲に含まれなくなることがあります。特にライセンシーはどのような点に注意を払うべきなのでしょうか。以下の裁判例を見てみましょう。

1.大阪地裁平成21年4月7日判決(平成18年(ワ)11429号)
 本事案は、原告(X)所有の特許出願及びこれに係る特許権(許諾特許といいます)につき、Xとの間で実施許諾の契約を締結していた被告(Y)が、契約後にクレームが減縮補正されて特許されたことによってY製品が特許発明の技術的範囲に属さなくなったとして、実施料の支払いを拒絶し実施契約の解除の意思表示をしたことに対し、Xが訴訟を提起してY製品の差止請求、実施料の請求及び損害賠償請求を行ったものです。
 本事案では、Xの請求とは逆に、以下の3つの理由から既払いの実施料がXにとって不当な利得であると主張するYが実施料の返還を請求した点と、Xが補正の通知義務に違反したとしてYが損害賠償を請求した点とが争点になりました。
理由: (1)契約時のYの意思表示に動機の錯誤があった。
     (2)補正による減縮の効力が契約時に遡及する。
     (3)補正が出願の一部取下げと同視される。

2.大阪地裁の判断
 裁判所は、以下のとおり判示してYの主張を退けました。本事案の実施契約にはYからXになされた支払いの「不返還条項」が含まれていましたので、特許権発生後の許諾特許に含まれないY製品に関する既払いの実施料の返還も認められませんでした。
(1)Yの意思表示の時点で補正書は提出されておらず、動機に錯誤があったとは認められない。特許請求の範囲に変動を生じ得る点は契約上織り込み済みというべきである。
(2)特許権発生前の許諾特許は公開公報の特許請求の範囲に記載された発明を指すから、補正書の提出日に遡って減縮の効果が生じると解することはできない。
(3)補正によって確定的に減縮の効果が生じるわけではないから、補正(による減縮)を出願の一部取下げと同視することはできない。
(4)Xが補正書を提出したということだけでは直ちに実施契約上の権利義務に影響を及ぼすものではないから、信義則による補正の通知義務を認めることはできない。

3.今回の事案から見た留意事項
 本事案では、許諾製品の範囲が契約締結時に固定されると判示されましたが、個別の事案によっては補正に連動すると判示されることもあり得るため、第一義的には、補正により特許請求の範囲が減縮された場合についての定めを規定しておくことが重要です。設定登録後に訂正された場合についても規定すべきでしょう。出願そのものが拒絶査定となって実施料の原因となるものが消滅した場合は、契約にノウハウ等の開示が含まれていた場合を除いて実施契約の効力が将来に向けて消滅すると考えられます。なお平成20年の特許法改正では、仮通常(又は専用)実施権の制度とその登録制度とが設けられており、特許出願段階でのライセンシーの保護が図られています。

■ ライセンス契約について詳しくは、河野特許事務所までご相談下さい。

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