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共同研究を無駄にしないために

〜共同発明者の特定の重要性〜

2011.5.1 野口 富弘


 企業や大学等で共同研究・共同開発が一般化する中、共同発明者の一部によって特許権が取得されるケースが発生しており、共同研究等の精華を適切に保護することが重要になってきています。そこで、一つの裁判例(本事案)を通じて共同研究時の留意点を紹介します。

1.事案の概要
 被告Xは、訴外A(県警担当者)及び被告Xの代表者Bを発明者とする「車間距離保持不足違反の違反証拠作成システム」に係る特許発明(本件特許発明)の特許権者である。原告Yは、原告Yの代表者Cも発明者であるとして特許庁に対し、無効審判を請求しました。特許庁は「本件審判の請求は成り立たない」との審決をしました。本件は審決を不服として原告が控訴した事案です(平成18年(行ケ)第10369号)。

2.主な争点
 審決は本件特許発明が共同発明であることを看過したか。

3.知財高裁の判断
 知財高裁は、発明をしたというためには、原則として、単なる着想にとどまらず、試作、テストを重ねて課題を解決し、着想を技術として具体化されていなければならないとし、例外的に、具体化が当業者にとって自明といえる場合には、着想をもって「発明をした」ということもあり得ないことではない、とした上で、本件特許発明の機能を果たしているのは、ソフトウェアであって、そのために試作、テストを積み重ねる必要があるので、具体化が当業者にとって自明なものとはいえない、と判断しました。そして、試作段階の当初から、そのソフトウェアの開発作業を行ったのがCであるから、本件特許発明は、A、B及びCの共同発明であり、本件出願は、被告XがA及びBのみを発明者とし、Cを除外してした出願であるから本件特許は無効というほかないとして、審決を取り消しました。

4.共同研究時の留意点
 本事案では、原告及び被告とも最終的には、共同研究で得られた成果である発明についての特許権を逸失しています。このような事態を未然に防ぐためには、
@共同発明の着想及びその具体化に誰が関与したかをはっきりさせておくことが重要です。発明者であるというためには、単なる着想にとどまらず、試作あるいはテストを積み重ねて着想を具体化していなければなりません。本件特許発明のようなシステムの場合、公知技術を組み合わせる段階で工夫が必要となることが多く、具体化が当業者にとって自明とはいえないので、着想のみで発明者であると考えることは禁物です
A共同発明を行った場合には、発明の内容を資料や図面等で特定し、発明完成日を明記し、誰が発明者であるかを発明者全員で宣誓した宣誓書を作成しておくことが重要です。発明者を特定する際の有力な証拠となるからです。  なお、共同発明者の一部によって特許権が取得されてしまった場合、発明者が特許権を取り戻せるよう(特許権の移転を請求することができるよう)、特許法の改正が予定されています。

■発明に関するご相談は、お気軽に河野特許事務所までお問い合わせください。

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