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2011.11.4 大堀 民夫
特許発明の構成要件を全て備えた場合に特許権の侵害(文言侵害)が成立しますが、特許発明と一部構成が異なっていても均等侵害が成立する場合があります。最高裁判所の判例(平成6年(オ)1083号)により均等の認定には5つの要件が必要です。
以下、均等論が認められた知財高裁判決(平成21年(ネ)10006号)を紹介します。尚、地裁判決(平成19年(ワ)28614号)では均等侵害は否定されています。
(1)本件発明
金属製外殻部材の接合部に繊維強化プラスチック製外殻部材の接合部を接着すると共に、繊維強化プラスチック製の縫合材を金属製外殻部材の接合部に設けた貫通穴を介してプラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通し、両外殻部材を結合した中空ゴルフクラブヘッド
(2)対象製品
炭素繊維からなる帯片を金属製外殻部材の1つの貫通穴を介して金属製外殻部材の上面側のFRP製外殻部材との接着界面側と下面側のFRP製外殻部材との接着界面側とに通し、両側のFRP製外殻部材と各1か所で接着し、金属製及びFRP製の両外殻部材を結合した中空ゴルフクラブヘッド
(3)知財高裁の判断
先ず、本件の「縫合材」を「金属製外殻部材の2以上の貫通穴を通し、少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接着する部材」と解釈した上で、対象製品の「帯片」は上記「縫合材」の要件を充足しないので、文言侵害が否定されました。
次に、以下の均等の5要件の判断に基づき、均等侵害が認定されました。
1.「縫合材」と「帯片」とは作用効果(金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材との接合強度を高める)が共通し置換可能性がある。
2.金属製外殻部材の2か所の貫通穴に通す部材を1つの貫通穴に通す部材に置換することは対象製品の製造時点で容易である。
3.本件発明の課題解決の重要部分は「金属製外殻部材に設けた貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の部材を金属製外殻部材のプラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材とを結合した」構成にあり、「縫合材」の語は繊維強化プラスチック製の部材を金属製外殻部材に通す形状から用いられたもので通常の意味とは明らかに異なるから、「縫合」の語義を重視するのは妥当ではなく、貫通穴に通す部材が2以上の貫通穴に通した縫合材であることは本件発明を特徴付けるほどの重要部分(本件発明の本質的部分)ではない。
4.対象製品は本件特許の出願時の公知技術と同一又は容易に推考できたものではない。
5.本件特許の出願経過で、「縫合材」を、金属製外殻部材の1つの貫通穴に通し上下のFRP製外殻部材と各1か所で接着した部材に置換することは意識的に除外されてはいない。
(4)本事例から読み取れること
本件特許発明の「縫合材」について「金属製外殻部材の2以上の貫通穴を通し、少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接着する部材」と限定解釈し、本質的部分と暗に認めているにもかかわらず、「2以上の貫通穴に通した縫合材」が本件発明の本質的部分ではないとした知財高裁の判断には疑問があります。従って不利な解釈をされるリスクを避けるため、適切な用語の使用と共に複数の実施形態によるサポートが重要です。
◆ 発明の権利化並びに権利侵害については河野特許事務所にご相談下さい。
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