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冒認出願でないことの主張立証責任は特許権者にあり
〜特許権の真の権利者の特定の重要性〜

                                   2011.12.1 野口 富弘


 特許権の有効活用の観点から、ライセンス契約だけでなく特許権の譲渡が一般化しており、特許出願時の事情を知らないまま特許権を譲り受ける場合もあります。そこで、一つの裁判例(本事案)を通じて特許権を譲り受ける際の留意点を紹介します。

1.事案の概要
 原告Xは、訴外Aを出願人、訴外Bを発明者とする「緑化吹付け資材および緑化吹付け方法」に係る特許発明(本件特許発明)の特許権を譲り受けた特許権者である。被告Yは、本件特許発明の真の発明者は訴外Cである(いわゆる冒認出願である)として特許庁に対し、無効審判を請求しました。特許庁は「特許を無効にする」との審決をしました。本件は審決を不服として原告Xが控訴した事案です(平成17年(行ケ)第10193号)。

2.主な争点
 冒認出願を理由とする無効審判における主張立証責任は誰にあるか。

3.知財高裁の判断
 知財高裁は、無効審判における主張立証責任は、特許無効を来すものとされている各事由の内容に応じて、それぞれ判断されなければならないとした上で、特許法は、特許権を取得し得る者を発明者及びその承継人に限定している(いわゆる発明者主義)ことに照らして、特許無効審判においても、出願人ないしその承継者である特許権者は、特許出願が発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたことについての主張立証責任を負担するものと解することが相当である、と判断しました。そして、原告Xが発明者であると主張するA、B及び訴外Dについて、Bは投資獲得のため便宜上発明者として記載されたものであり、Aは発明に関する情報をすべてDから入手したものであり、Dは真の発明者Cから発明の開示を受けたにすぎず、いずれも本件特許発明の発明者と認めるに足りる証拠はなく、本件審決の認定判断に誤りはない、と判断しました。

4.特許権を譲り受ける際の留意点
 苦労して譲り受けた特許権が、いわゆる冒認出願に係る場合、特許が無効となってしまいます。出願時の状況を全く知らなかったでは済まされません。
 このような事態を未然に防ぐためには、特許を受ける権利又は特許権を譲り受けるに当たり、権利の成立過程に権利の無効を来す瑕疵がないことを確認することが重要です。例えば、願書に記載されている発明者が真の発明者であるか、発明者から特許を受ける権利を譲渡した譲渡証書等の証明文書の存在を確認することが必要です。また、真の発明者を特定するには、発明を完成するに当って作成された書面が存在するはずですから、そのような書面を確認することも重要です。
 なお、平成23年の特許法改正により、真の権利者が、冒認者から特許権を取り戻すことを可能とする特許権の移転請求権が創設されましたが、真の権利者により移転請求権が行使された場合に、冒認者から特許権を譲り受けた者は、当該特許権に係る発明の実施を一定の条件のもと継続することができ、譲受人の保護が図られています。

◆ 発明に関するご相談は、お気軽に河野特許事務所までお問い合わせください。


 

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