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製造方法が異なる同一物の非侵害判決
〜プロダクト・バイ・プロセス・クレームの限界〜

                                   2012.2.1 廣田 由利

 

本件は、特許第3737801号を有するハンガリーの会社が、協和発酵キリン株式会社を特許権侵害で訴えた事件(東京地裁)の控訴審(平成22年(ネ)第10043号、平成24年1月27日)です。「物」の発明を、その製造方法により特定したクレーム(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム、以下、製法限定Cという)の権利解釈が審理されました。

1.製法限定Cの権利解釈
製法限定Cの権利解釈として、@異なる製造方法で製造されたとしても、同一の物であれば他社製品に特許権の効力が及ぶ(同一説:最高裁判決、平成10年(オ)第1579号)、A製法限定Cと同一の製造方法により製造された場合のみ、他社製品に特許権の効力が及ぶ(限定説:東京地裁判決、平成12年(ワ)第27714号)、の2説があります。多くの判例では、原則同一説を採用し、審査過程で引用例に対して製法の相違を主張して特許された場合等は禁反言の法理により限定説を採用してきました。
2.裁判所の判断
裁判所は「製法限定Cの技術的範囲について,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在しない場合は,その技術的範囲は,クレームに記載された製造方法によって製造された物に限定される」と判断し、原則は限定説、上述の事情がある場合は例外的に同一説を採用するという規範を示しました。原告特許の場合、出願時に上述の事情は存在しなかったと判断したので限定説が適用され、被告製品は、原告の製法限定Cの製法のうち、一部の工程を経ることなく製造されていたので、結果的に非侵害となりました。
また、特許が無効であるか否かを判断する場合の特許発明の要旨の認定も上記と同様に、出願時に上述の事情が存在しない場合、製造方法により製造された物に限定して認定すべきと判示し、本件の場合、無効とすべきと判断しました。
3.今後の対応
請求項を製法限定Cで記載して出願し、特許されたとしても、異なる製法で製造する他社に対し、同一説により侵害を主張するには、上述の事情があったことを立証する必要があります。また、上述の判示により特許性は今後、限定説により判断されるようになると思われ、特許はされやすくなると思われるが、限定説の場合、特許権の権利範囲が狭くなります。従って、物のクレームは、原則、構造で特定し、構造で特定できない場合は特性(物性等)により特定するようにして、製法限定Cとしては記載せず、拒絶理由対応でも、製法限定Cに補正することは避けるべきと考えます。構造でも物性でも特定できないと判断した場合、製造方法のクレームとして記載することにし、物のクレームとして製法限定Cを併記すればよいと考えます。

製法限定Cの権利範囲

構造・特性で特定可能?

       YES      ↓NO

同一製法の同一物

製法不問で同一物


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