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2013.9.1 野口 富弘
他者が特許権を得た発明と同一の発明が他者の特許出願時前に完成しており、さらに所定の要件を満たす場合、特許権侵害を問われることなくその発明に係る事業(例えば、自社製品の製造・販売)を継続することができます(先使用権といいます)。
今回は一つの裁判例を通じて先使用権について紹介します。
1.事案の概要
原告Xは「フルオレン誘導体の多結晶体(以下、「BPEF」といいます)及びその製造方法」に係る特許発明の特許権者です。原告Xは、被告Yが製造・販売する被告製品が特許権を侵害するとして訴訟を提起しましたが、大阪地裁は、被告Yは、原告Xの発明と関わりなく独自に同一の発明をした訴外Aからその発明を知得し、原告Xの特許出願の際現に日本国内において知得した発明の実施である事業をしていると認められるから、先使用権を有するとして原告Xの請求を棄却しました。原告Xは原判決を不服として控訴しました(知財高裁 平成24年(ネ)第10016号)。
2.知財高裁での主な争点
先使用権が認められるための主な要件である(1)先使用権の対象となる発明か、(2)特許出願の際現に事業をしていたか、が争われました。
3.知財高裁の判断
知財高裁は、先使用権が成立するためには、まず、これを主張する者が特許出願に係る発明の内容を知らないで、当該特許出願に係る発明と同一の発明をしていること、あるいは、同一の発明をした者からその発明を知得することが必要であるとした上で、控訴人(原告X)の特許出願日より前に、訴外Aは特許発明と異なるBPEFの製造方法を開発し、被控訴人(被告Y)は、訴外AからBPEFの製造方法について開示を受け、特許発明の技術的範囲に属するBPEFを少なくとも約30トン委託製造しているから、被控訴人製品に係る発明は先使用権の対象となる発明と認められると判示しました。
また、被控訴人においては、控訴人の特許出願日より前に、委託による製造とその製品の譲渡が反復継続されおり、これらの行為は事業の実施に該当すると、原審と同様の判示をし、控訴を棄却しました。
4.先使用権の留意点について
先使用権は、特許出願の際現に事業をしていなくとも、事業の準備をしていれば認められます。「事業の準備」とは、いまだ事業の実施の段階には至らないものの、「即時実施の意図を有し」かつ「その即時実施の意図が客観的に認識される態様、程度において表明されている」ことをいいます(最高裁判決昭和61年10月3日判決)。そして、「事業の準備」の立証には、事業計画書、設計図、仕様書、見積書、試作品の製造・納入などの日常的な資料を保存しておくことが重要です。
また、他者の特許出願の際に、製品の製造を行っていたものの販売の準備までは行っていなかった場合には、その後の製品の販売(実施行為の変更又は追加)には先使用権が認められません。
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