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特許権者による告知が信用毀損行為!

特許権者が損害賠償を命じられた事件

2013.10.1 廣田 由利

 不正競争防止法では、ライバル社が信用を失う虚偽の事実を知らせる、又は流す行為を信用毀損行為と定めています。この事件では、口紅に用いられる「繰り出し容器」(以下、「容器」と言います)の特許権を有するX及びXが代表を務めるatoo(株)(A社)が、この「容器」を用いた口紅を輸入・販売する日本ロレアル(株)(L社)等の二社の取引先及び消費者に対し、L社等が特許権を侵害していると知らせた行為が信用毀損行為と認められ、知財高裁は、X等に損害賠償として、二社にそれぞれ100万円ずつ支払うように命じました(平成25年(ネ)第10018号)。以下に、この事件のあらましを説明いたします。

1.事件の背景
 Xは、「容器」の図面を蘇州シャ・シン社(B社)に見せたときに、B社がL社の「容器」を作ることを知っていました。L社等は、Xの特許の出願の際、B社が作った「容器」を有する口紅を輸入しており、その後輸入を止めましたが、Xが侵害を見つけたとする平成23年1月でも、店では購入でき、販売は継続されていました(他人の出願時に特許発明を実施していた者は先使用権を主張することができます)。その後、Xは、特許庁からL社等の「容器」が特許権の技術的範囲に入るという判定を得ました。このとき、L社等は先使用権を主張せず、XはL社等の取引先に侵害を知らせ、A社はこれに沿った記事や紛争の経過をHPに掲載しました。L社等は、①先使用権を有するので、Xは特許権による差止請求権、損害賠償請求権は有しないこと、②X等の行為は信用毀損行為に当たるので、この行為を差し止めること、③謝罪文をA社のHPに掲載すること、④損害賠償として二社に各2000万円を支払うことを求めて、大阪地裁に訴訟を起こしました。

2.大阪地裁の判断(平成23年(ワ)第7407号)
 大阪地裁は、①及び②を認め、③は認めず、④は額を200万円に減らした上で認めました。地裁は、X等は、B社とのやり取りからL社等が先使用権を有することを知っていたはずなのに、信用毀損行為を行ったので、これは「故意」であると判断しました。X等は判決に納得せず、知財高裁に控訴しました。X等は、L社等は輸入を途中で止めたので、先使用権は消滅したことも主張しました。

3.知財高裁の判断
 知財高裁は、販売は継続しているので先使用権は消滅していないと判断しました。また、先使用権の主張は信用毀損行為のときにはされてはいなかったとしても、X等による侵害の告知が、L社等のたくさんの取引先にされていること、告知は執拗かつ広汎で、脅迫的といえるようなものであったことを考えれば、X等の行為は過失に当たると判断しました。知財高裁は、損害賠償の額を100万円に減らしたこと以外は、大阪地裁の判決の通りであると判断しました。
 以上のように、特許権者が発明を実施する者に対し、侵害を主張する場合、相手が先使用権を有していることもありますし、侵害を他者に告知したあとに先使用権が主張されることもありますので、十分に注意し、前もって調査する必要があります。

◆ 侵害調査についてご質問がございましたら、お気軽に河野特許事務所までお問い合わせ下さい。

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