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2016.3.1 廣田 由利
「物」の発明を製造方法により特定するプロダクト・バイ・プロセス・クレーム(以下、
PBPクレームという)の特許について侵害訴訟がなされ、知財高裁判決(平成22
(ネ)10043)が、最高裁判決(平成24(受)1204号、同2658号)で破棄され、知財
高裁に差し戻されました。以下、2つの裁判所のPBPクレームの解釈、特許庁の
取り組み、今後の対応について説明いたします。
1.これまでの経緯
PBPクレームの権利解釈として、①製法に関係なく、被告製品と同一の物であるか否かで判断する(物同一説)、②PBPクレームと同一の製法に限定して解釈する(製法限定説、)の2説があります。
特許庁はPBPクレームを物同一説で認定し、最高裁判決(平成10年(オ)第1579号)では物同一説が採用され、裁判所においても原則物同一説が採用されてきました。
ところが、本件に対し、知財高裁は「PBPクレームの技術的範囲は、物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在しない場合、クレームに記載された製法によって製造された物に限定される」と判断し、原則は製法限定説、「事情」がある場合は例外的に物同一説としました。本件の場合、相手の製品は、PBPクレームの製法の一つの工程を経ずに製造されるので、非侵害品とされました。
2.最高裁の判断
一方、最高裁は、PBPクレームは物同一説で解釈すべきとしました。一見、権利者に有利のように思われますが、PBPクレームは特許法第36条第6項第2号の明確性要件を満たす必要があるとしました。PBPクレームの場合、製法が物のどのような構造又は特性を表しているのか、物の発明であってもその製法に限定しているのが不明確であるとしています。PBPクレームが、この要件を満たすのは、出願時に物を構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られるとしました。すなわち、この事情がないPBPクレームは不明確であり、拒絶されるべきであり、特許されていた場合は無効にされることになります。知財高裁は、PBPクレームで「事情がない場合」は、権利範囲を製法で限定することで第三者との調整を図っていましたが、最高裁は「事情がない場合」は、特許できないとしています。本件の侵害の存否は、無効理由の存否と絡めて知財高裁で争われることになります。
3.特許庁の取り組み
特許庁は最高裁判決を受けて、「審査ハンドブック」において、PBPクレームに該当する例及び該当しない例、「事情」に該当する例及び該当しない例を示しました。また、「事情」の主張・立証の参考例も公表し、PBPクレームに該当しない例の検討をさらに行って、4月に審査ハンドブックを改訂するとしています。
4.今後の対応
上述のように特許庁は出願人の便宜も考えています。これからはPBPクレームかどうかを新しい審査ハンドブックで確認し、PBPクレームに該当する場合は構造、特性(物性等)で特定できないかを考え、これらで特定できないときは、製法のクレームにする、または「事情」が主張できるときは、PBPクレームにすることが考えられます。
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