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2017.2.1 八木 まゆ
欧州における特許権の管理を統一的に行なうことを可能とする欧州単一特許制度、及び特許権についての法的判断を統一的に行なう統一特許裁判所制度の運用が2017年12月に開始される見通しです。イギリスの国民がEUからの離脱を選択しましたが、そのイギリスも当制度への参加を表明しています。
1.欧州単一特許制度
欧州での特許権取得にはこれまで、各国へ個別に出願及び登録手続を行なうか(方法①)、欧州特許庁(EPO:European Patent Office)へ出願し、いずれの国で保護を求めるかを選択し、選択した国毎に登録手続及び特許料の納付を行なうか(方法②)の方法がありました。方法②では出願は1つに統括されますが、権利化後は方法①同様に、特許料納付などの管理が国毎に必要であり、更には各々公用語への翻訳が必要でした。
これに対し新たな欧州単一特許制度では、EPOが認可した発明について当制度参加国(現状26)にて統一的に効力を発する特許権、即ち単一特許の登録が認められます(方法③)。具体的には、発明を認可したEPOへの「単一的効力の登録」の請求、1ヵ国語への翻訳文提出、及び特許料納付で済みます。
方法①~③の併用も可能です。新たな方法③による単一特許と、従来の方法②による特許との二重保護は認められませんが、例えば当制度参加国における方法③による単一特許と方法①による各国特許との二重保護が、国によっては認められるようです。また同一の発明について、当制度参加国における方法③による単一特許と、当制度参加国以外のEPC(European Patent Convention)加盟国(例えばスペイン、スイス等)における方法①による各国特許又は②による欧州特許との併存が可能です
2.統一特許裁判所制度
これまでの制度(方法①及び②)による特許権は、国毎に登録されるものですからその権利行使に関する判断及び有効性の判断(ドイツ及びフランスでは無効審判制度は存在せず、裁判所へ無効訴訟を提起)は各国の裁判所で行なわれました。したがって裁判における結論には国によって違いが生じ、更には結論が出るまでの期間も国によって異なるという状況でした。
新しい制度により統一特許裁判所(UPC:Unified Patent Court)が設立されます。UPCは3箇所の中央部と、複数の地方部・地域部、及び控訴裁判所で構成されます。そして上述の単一特許と方法②により登録された欧州特許との双方についての権利行使に関する判断及び有効性の判断は、UPCが統一的に行ないます。つまり1つの機関による調和がとられた判決を得ることができるとされています。
3.メリット・デメリット
単一特許の登録を受けることのメリットは主に費用及び手続の統一です。登録はEPOへの請求手続を現地代理人経由で行なえばよく、しかも請求手続及び登録に係るEPOへの手数料、審査費用(書誌的要件についての審査)、及び単一的効力の登録料はいずれも不要です。
またEPOへ提出する翻訳文(出願言語以外への翻訳)は上述のように1ヵ国語でよく、しかも翻訳の質は問わない(機械翻訳可)とされているので、膨大になりがちな翻訳費用を節約できます。
特許料(年金)納付手続も統括され、その費用は主要4ヵ国(ドイツ、フランス、イギリス及びオランダ)の年金の総額相当に設定されるので、これらの国を含む多数の国での権利取得を考えている場合には特許料の節約になります。
一方で、欧州単一特許の登録を受けることのデメリットは主に、権利が一本化されることによる権利消滅のリスクです。単一特許は、UPCにて無効訴訟が提起され、無効であると判断された場合、当制度参加国全てについて一度に無効になります。その他、各国に設立されるUPCの地方部・地域部における判断が、実際に調和的なものとなるのかの懸念等があります。
◆欧州における特許権取得について河野特許事務所までご相談ください。
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