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2017.5.1 水沼 明子
特許庁は、2017年3月22日に、「特許・実用新案審査ハンドブック」を改定しました。この改定により、末尾が「データ構造」または「構造を有するデータ」である請求項(以下、データ構造CL.と称します)の具体例、および、その具体例に記載された発明が特許法上の「発明」に該当するか否かの解説が示されました。
1.データ構造発明の保護の沿革
1997年に発表された審査の運用指針により、「構造を有するデータを記録した記録媒体」および「プログラムを記録した記録媒体」が特許の対象となることが明示されました。さらに2000年の審査基準改定により、末尾が「プログラム」である請求項(以下、プログラムCL.と称します)が認められました。この際に、データ構造CL.も認めることが、明示されています。このように、特許庁はデータ構造発明を審査する環境を2000年までに整えていました。さらに、2002年の特許法改正により、プログラム等は「物」であることが規定されました。
日本を第一国出願とするデータ構造発明の登録第1号は、1995年に出願され、2000年の審査基準改定の約半年前に登録された特許3072702号「アウトラインフォントデータのデータ構造及びアウトラインフォントデータのデータ記憶方法」です。本件では、フォントの輪郭線の増分の大小関係を識別する識別フラグと、増分と、符号とにより、アウトラインフォントを記憶するデータ構造が特許されています。この発明は、アウトラインフォントの直線要素の記憶容量を削減することを目的としています。
データ構造CL.を含む特許は、2017年3月22日までに303件が登録されています。これは、プログラムCL.を含む特許の0.2%です。この比率は公開公報でも殆ど変わりません。出願人がデータ構造CL.をあまり出願しない状況が20年近く続いてきました。
2.改訂内容
付属書に示された具体例の一つに、「音声対話システムの対話シナリオのデータ構造」があります。ユーザとの音声対話のシナリオが、対話ユニットを木構造に繋いだデータ構造に記録されています。コンピュータは、ユーザからの応答に基づいて木構造の分岐を判定して、次の応答を記録した対話ユニットを取得することにより、ユーザとの音声対話を行います。
この事例のデータ構造は、音声対話システムにおける情報処理を規定し、音声対話という情報処理を可能とするので、特許法上の「発明」に該当すると説明されています。
今回の改定には、データ構造CL.の出願を推奨することにより、IoT (Internet of Things)、AI(Artificial Intelligence)およびビッグデータ 等の、データを活用する新しい技術分野の発明の保護を充実させたいという、特許庁の意向が示されていると思われます。
3.今後の指針
データに基づいてコンピュータが処理内容を変更するタイプの発明では、プログラムCL.と、データ構造CL.との両方の請求項を、装置、方法およびシステム等に関する請求項と共に出願することにより、多面的な観点から保護できると考えます。
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