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ソフトウェア関連特許における侵害立証

~アルゴリズムの立証は可能?~

2018.5.1 森田 恭允

ソフトウェア関連特許の侵害訴訟において、特許請求の範囲にアルゴリズムが含まれている場合、特許権者にとって、対象製品について目視で侵害の成否を判別することは難しいです。そのような侵害訴訟を紹介します。

1.概要
2016.10.21 東京地裁に訴訟提起(平成28年(ワ)第35763号)
原告:freee株式会社(特許権者) 
被告:株式会社マネーフォワード 
対象特許権:特許第5503795号  
発明の名称:会計処理装置、会計処理方法及び会計処理プログラム 2017.7.27
判決:原告敗訴

2.原告の主張、被告製品及び方法
(1)原告は、被告製品が本件特許を侵害している旨を主張しました。本件特許発明は、キーワードに対する勘定科目の自動仕訳を行うものであり、ある取引に対して複数のキーワードがある場合、各キーワードに優先ルールを適用して優先順位の高いキーワードについて、対応テーブルを参照して勘定科目を選定するものです。
(2)被告製品及び方法は会計ソフトに関するものであり、キーワードに対して勘定科目の自動仕訳を行うものです。

3.争点、裁判所の判断
(1)本事件において、争点は、被告製品の自動仕訳の手法が、本件特許発明の「前記ウェブサーバが、各取引を、前記各取引の取引内容の記載に基づいて、前記取引内容の記載に含まれうるキーワードと勘定科目との対応付けを保持する対応テーブルを参照して、特定の勘定項目に自動的に仕訳する」、及び「前記対応テーブルを参照した自動仕訳は、前記各取引の取引内容の記載に対して、複数のキーワードが含まれる場合にキーワードの優先ルールを適用し、優先順位の最も高いキーワードにより、前記対応テーブルの参照を行う」という構成要件を満たすか否か(加えて、被告の製品及び方法が本件特許発明の均等の範囲に含まれるか否か)でした。
(2)裁判所は、被告の製品及び方法における自動仕訳のアルゴリズムが本件特許発明における「対応テーブルの参照」「優先ルールの適用」のアルゴリズムとは異なるとして、文言侵害を否定する判決を下しました。均等論については、被告製品との相違部分が発明の本質的部分であり、かつ禁反言が適用されるとして否定しました。また、原告が被告の製品及び方法を明らかにすべく行った、被告特許出願書類の一式(出願番号等は不明)の提出に関する申立ては却下されました。

4.被告による立証
 被告は自身の自動仕訳のアルゴリズムが本件特許のアルゴリズムと異なるものであることを証明する必要がありました。被告は、例示的なキーワードに対する勘定科目について、仮に本件特許と同様の手法で仕訳をした場合では説明できない選定結果が得られることを示してこれを証明しました。

5.インカメラ手続き
 インカメラ手続きとは、原告が申立てた書類の提出を被告が拒む正当な理由があるかについて、裁判所のみが本書類の提示を受けて判断するものです。本事件においても、裁判所は被告から書類の提示を受けて判断し、前記特許出願には、優先ルール及び対応テーブルに相当又は関連する構成について記載がなく、秘密としての保護の程度が証拠としての有用性を上回るので、正当な理由があるとして原告の申立てを却下しました。おそらく、本特許出願が未公開の出願であったため、このような判断がなされたと考えられます。

6.考察
 ソフトウェア関連特許においては、侵害訴訟でアルゴリズムの立証が難しいため、できる限り目視で確認できるような形(UIなど)で特許請求の範囲を作成する必要があると考えます。また、訴訟を提起する際には、今回被告が行った立証のような確認作業を、原告側でも念入りに行う必要があると考えます。

◆ソフトウェア関連特許についてご質問がございましたら、お気軽に河野特許事務所までお問い合わせ下さい。

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