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無効審判の請求人適格

~ 利害関係人に該当するか否か~

2018.10.1 新井 景親

はじめに
 平成26年特許法改正前は、特許権を無効にする無効審判を「何人」も請求することができましたが、平成26年特許法改正後は「利害関係人」に限り請求することができます。「利害関係人」に該当するか否かは、個々の事件において、個別に判断されるので、その範囲は明確ではなかったところ、知的財産高等裁判所特別部(大合議部)は、2018年4月13日に「利害関係人」の該当性について判示しました(平成28年(行ケ)第10182号・第10184号)。

大合議部の判決
 原審は「ピリミジン誘導体」という化合物に係る特許に対して、進歩性違反等を理由に請求された無効審判です。無効審判では請求不成立審決がなされたため、審決取消訴訟が提起されました。本事件には改正前特許法が適用されました。本訴訟の口頭弁論終結時に本件特許は消滅しており、法的不利益が具体的に存在せず、原告には訴えの利益がないと被告が主張したところ、大合議部は、特段の事情がない限り、何人にも訴えの利益は認められると判示しました。
 更に大合議部は、改正後特許法における訴えの利益についても言及し、『・・特許無効審判は,「利害関係人」のみが行うことができるものとされ,・・現在においては,特許無効審判請求をすることができるのは,特許を無効にすることについて私的な利害関係を有する者のみに限定されたものと解さざるを得ない。しかし,特許権侵害を問題にされる可能性が少しでも残っている限り,そのような問題を提起されるおそれのある者は,当該特許を無効にすることについて私的な利害関係を有し,特許無効審判請求を行う利益(したがって,特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益)を有することは明らかであるから,訴えの利益が消滅したというためには,客観的に見て,原告に対し特許権侵害を問題にされる可能性が全くなくなったと認められることが必要であり,特許権の存続期間が満了し,かつ,特許権の存続期間中にされた行為について,原告に対し,損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存することが必要であると解すべきである。』(下線は筆者が追加)と判示しました。
 なお訴えの利益は認められたものの、原告による無効の主張は退けられ、審決は維持されました。

考察
 大合議部の上記判決によって、特許権侵害を問題にされるおそれのある者は、原則として「利害関係人」に該当することになったと考えられます。即ち、特許権侵害の訴えを提起されている又は特許発明と同種の製品を製造しているなどの現実的・具体的な事実関係までは要求されず特許発明に係る製品又は方法の実施を現実に行っていなくても、特許権の存在によって特許発明の実施は制限されるという潜在的な不利益を考慮すると、請求人が同業者であれば、ほとんどの場合、「利害関係人」に該当すると考えられます。
 ただし、過去及び将来に亘って、請求人が特許発明を実施せず、実施の可能性も極めて低い場合、例えば、請求人がコンサルタント業者である場合には、上記判決における「特段の事情」に該当する可能性が高く、「利害関係人」に該当する可能性は低いと考えられます。

◆特許無効審判について質問・相談がございましたら、お気軽に河野特許事務所までご連絡ください。

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