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医薬特許出願

~実施可能要件を満たす明細書の条件~

2018.11.1 森田 恭允

 医薬は、「化合物Aを有効成分とするB病治療薬」等の用途発明として特許出願されます。また、特許出願の明細書における発明の詳細な説明には、実施可能要件が要求されます。医薬用途発明の特許出願(特表2011-518223)について、知的財産高等裁判所は、2017年10月13日に実施可能要件の充足性について判示しました(平成28年(行ケ)第10216号)。

1.実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)
 実施可能要件とは、発明の詳細な説明が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることです。また、特許・実用新案審査ハンドブック附属書Bにおいて、通常一つ以上の代表的な実施例の記載が必要であるとされ、医薬用途を裏付ける実施例として、薬理試験結果の記載が求められると規定されています。薬理試験結果は数値データで記載することを原則とし、数値データと同視すべき程度の客観的な記載で許容される場合もあります。

2.本願発明
 本願発明はω-6脂肪酸及びω-3脂肪酸を含む脂質含有配合物に関するものです(補正後の請求項1)。

3.判決
 本裁判は審決取消訴訟であり、拒絶審決において審判官は、「医薬の用途発明においては、一般に、物質名、化学構造等が示されることのみによっては、当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予測することは困難であり、当該医薬を用途に使用することができないから、医薬用途発明においては実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明は、その医薬を製造することができるだけでなく、出願時の技術常識に照らして、医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されている必要がある。」(下線は筆者、以下同じ)とし、発明の詳細な説明は本願発明の医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されていないと判断しました。
 裁判所は、上記の審判官の判断に対して更に、「本願発明が実施可能要件を満たすものといえるためには,本願明細書の発明の詳細な説明が,本願出願当時の技術常識に照らし、本願発明に係る配合物を使用することによって本願発明に係る各医学的状態のそれぞれについて予防又は治療の効果が生じることを当業者が理解できるように記載されていなければならないものといえる。」と判示しました。
 以上のことを踏まえて、裁判所は、本願明細書における各医学的状態の内、3つの医学的状態を捉え、これらの医学的状態に対するω-6脂肪酸及びω-3脂肪酸の具体的な摂取量、比率が明らかにされていないこと等を理由として、予防又は治療の効果が生じることを裏付ける実証例の記載として不十分であるとし、予防又は治療に本願発明が有用であると当業者が理解できるような記載が認められない旨を判示し、本願について実施可能要件を満たさないとし、原告請求を棄却しました。

4.考察
 医薬の用途発明の特許出願では、検証結果等の医薬の有用性が分かるデータを記載し、その記載にあたって、有効成分の具体的な量又は比率の数値等の検証条件を記載する必要があると考えます。また、検証における当該有効成分以外の条件についても記載する等して対象への効果が当該有効成分によることが明確となるように記載すべきと考えます。また、効果に関しても可能な限り数値として示すべきであると考えます。

◆医薬の用途発明に関する特許出願についてご質問がございましたら、お気軽に河野特許事務所までお問い合わせ下さい。

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