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2019.1.4 難波 裕
2018年6月に特許庁が公開した『ライフサイエンス分野の審査基準等について』*1から、特許の取得が可能な『医療機器の作動方法』に関する事例を紹介致します。
1.医療行為と産業上利用可能性
「産業の発達に寄与する」(特許法第1条)という法目的に照らして、産業上利用可能な発明は全て特許法の保護対象となります。しかし、医療行為は人の生存や尊厳に深く関わるため広く開放すべきという人道的理由や、特許権侵害の恐れを持ちながら医師を治療に当たらせることは著しく不当という理由*2から、「人間を手術、治療又は診断する方法の発明」は産業上利用可能性を有しないものとして、保護対象から除外されています。
一方で、①医療機器・医薬等の物の発明、②医療機器の作動方法、③人体から各種の資料を収集するための方法は医療行為自体ではなく、産業上の保護の要請も強いことから産業上利用可能性を有するものとされ、特許を取得することが可能です。
2.『医療機器の作動方法』
上記の通り、①医療機器自体で特許を取得することも可能ですが、②医療機器の作動方法という形で特許を取得することも有益です。医療機器の構造などのハード面だけでなく、その医療機器をどのように作動させるかというソフト的側面からも技術を保護することができるためです。
ただし、医療機器を使用して人間を手術、治療又は診断する方法ではないことを明確にするため、医療機器自体に備わる機能を方法として表現したものである必要があります。具体的には下図*3のように、医師が行う工程と機器による人体に対する作用工程が発明に含まれていないことが要件となります。
審査基準の事例では、医師がマニピュレータを使ってロボットを遠隔操作し、患者の患部を切開するマイクロ手術ロボットシステムの発明が挙げられております。この発明を「マニピュレータから操作信号を受信し、受信した操作信号に基づいてロボットの切開手段が作動するロボットの作動方法」と表現した場合、特許の取得が可能な発明に該当します。上図左側のように、医師がマニピュレータを操作する工程や患者の患部を切開する工程が発明に含まれておらず、ロボット自体に備わる機能を表現したものに過ぎないためです。
一方で、上図右側のように「医師がマニピュレータを操作し、マニピュレータから操作信号を受信し、受信した操作信号に基づいて切開手段により患者の患部を切開する方法」と表現した場合、医師が行う工程と人体に対する作用工程を含むため、特許を取得することができません。
両者は本質的には同じ技術的思想を意味していますが、表現次第では特許を受けることが出来ません。
◆ ライフサイエンス分野の特許について、河野特許事務所までご相談ください。
*1 https://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/pdf/lifescience_kijun/kijun.pdf
*2 平成12年(行ケ)第65号 審決取消請求事件
*3 特許庁『ライフサイエンス分野の審査基準等について』スライド43引用
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