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2019.8.1 水沼 明子
特許法の一部を改正する法律が公布されました。ここでは、特許権侵害に関する証拠収集制度(査証)の新設について解説します。本制度の施行日は未定ですが、2020年の秋までに施行されます。
概要
特許権侵害訴訟では、権利侵害が行われていることを立証する責任は特許権者側にあります。しかし、製造方法に関する特許や、ソフトウェア特許等では、特許権者側による侵害立証が難しい場合が多くみられます。侵害行為を疑っていても、十分な証拠を集めて立証する目途が立たないために、権利行使を断念するケースが多いと考えられます。
今回の法改正では、中立の技術専門家(査証人)が被疑侵害者の工場等に立ち入って侵害立証に必要な証拠収集を行なう制度(査証)が新設されます(特許法第105条の2~第105条の2の9)。
この制度により、特許権の行使が従来よりも容易になることが期待されます。
制度の内容
(1)査証の申し立てと、査証の命令
特許権侵害訴訟が裁判所に提起された後に、特許権者側が書面で証拠収集を申し立てます。
裁判所は、以下の条件が全て満たされると判断した場合に、査証人を指名して査証を命じます。
①侵害の有無を判断するために、証拠の収集が必要である。
②侵害を疑うに足る相当な理由がある。
③特許権者自身では、証拠収集できない。
④査証を受ける側の負担が大きすぎない。
(2)査証の内容
査証には、以下の行為が含まれます。
・当事者の工場、事務所その他の場所への立ち入り。
・当事者への質問。
・書類等の提示要求。
・装置の作動、計測、実験。
査証を受ける当事者は、査証に必要な協力をしなければなりません。正当な理由無しに協力を拒んだ場合には、裁判所は特許権者側の主張が正しいと判断できます。
(3)査証報告書の扱い
査証人は、査証報告書を裁判所に提出します。裁判所は、査証を受けた当事者に査証報告書を送達します。
裁判所は、非公開(インカメラ手続き)で査証報告書の内容を確認します。査証を受けた当事者の同意がない限り、査証報告書の内容は特許権者側に開示されません。
査証を受けた当事者が査証報告書の開示を拒否した場合、裁判の終了後も査証報告書は第三者による裁判記録閲覧等の対象外になります。
すなわち、侵害被疑者が同意しない場合には、査証報告書の内容は特許権者側および第三者に開示されないため、査証を受けた当事者の営業秘密等は保護されます。
(4)懸念点
上記(1)の②で、どの程度の理由があれば査証が命じられるのかは、現時点では不明です。厳しければ本制度の活用が困難である一方、緩ければ訴訟が乱発される懸念があります。
◆特許権侵害に関する御質問がございましたら、お気軽に河野特許事務所までお問い合わせください。
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