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2019.11.1 難波 裕
AI関連発明の特許出願が増加しており、各国ではAI関連発明の審査基準の改訂や仮想審査事例の拡充を進めています。本稿では、日本特許庁(JPO)が欧州特許庁(EPO)と検討した仮想審査事例のほか、AI関連出願の最新トピックを紹介します。
1.仮想審査事例
2019年3月に日欧でソフトウェア分野の仮想審査事例を検討した報告書*1が公開され、以下の「宿泊施設の評判を分析するための学習済みモデル」がAI関連発明の事例として検討されています。
【請求項1】 |
宿泊施設の評判に関するテキストデータを入力すると「いいね」や「!」の出現頻度を抽出する第1のニューラルネットワークと、宿泊施設の評判を定量化した値を出力する第2のニューラルネットワークが接続されており、第1のニューラルネットワークで計算したテキストデータの特徴量を第2のニューラルネットワークの入力に利用する発明です。報告書では、発明の主題を請求項1「学習済みモデル」とした場合と、請求項2「プログラム」とした場合の発明該当性について検討されています。
2.日欧の見解
請求項1「学習済みモデル」については、日欧に見解の相違があります。EPOの見解では、「モデル」は抽象的な概念であり、コンピュータプログラムとは異なり、コンピュータにどのように計算を実行させるかが不明確であるから、請求項1「学習済みモデル」は発明に該当しないとしています。JPOの見解では、請求項の記載が「モデル」であっても「プログラム」であることが明確であり、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されていることから、発明に該当するとしています。一方で、本事例が商業的課題を解決するものである点をEPOは問題視しているものの*2、日欧共に請求項2「プログラム」の発明該当性は肯定的に捉えています。 以上のように、日本では「モデル」という抽象的な記載でも「プログラム」と同様に発明該当性が肯定されますが、欧州では否定されます。欧州への外国出願を検討される際に、発明の主題には注意が必要です。
3.最新トピック:AIは発明者になれるか?
AIを発明者とする特許出願が米国、欧州、英国の特許庁に係属しており、話題となっています*3。各国では自然人のみを発明者として認めていますが、この出願の発明は人間が介在せず、DabusというAIが設計(生成)した構造物の発明です。産業政策上、AIの創作物も知的財産として保護することが好ましいですが、特許は独占排他権という強力な権利であることを踏まえ、AIを発明者と認めるには慎重な議論が求められます。今回の特許出願を受けて、AIを発明者として認めても良いか、米国特許庁は意見を公募するに至りました。
◆AI特許出願に関するご相談は、お気軽に河野特許事務所までご連絡ください。
*1 ソフトウェア関連発明比較研究報告書,事例A-4(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/ai_jirei/01_ja.pdf)
*2 欧州では所謂ビジネスモデル特許の発明該当性を否定している(EPC第52条(2))
*3 https://www.bbc.com/news/technology-49191645
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