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被告の内部資料で公然実施が認められた事件

~ 屋根煙突貫通部の施工方法事件 ~

2020.1.6 弁理士 水沼 明子

 新規性・進歩性の欠如による特許権の無効を主張する場合には、一般的には刊行物を証拠に使用します。しかし本事件では侵害訴訟の被告側の内部資料に基づいて、被告が公然実施していたことが裁判所に認められました。

事件の概要
   事件番号:東京地裁 平成30年(ワ)第9909号 特許権侵害差止等請求事件
   対象特許権:特許第5047754号(以下、本件と言う) 
   出願日:2007年10月19日

発明の概要

 傾斜した屋根を貫通するタイプの煙突の施工方法等に関する特許です。請求項1の概要を示します。
 なお、請求項3は請求項1とほぼ同一内容の防水構造クレームです。
図

 開口部を覆うことで雨漏りを防ぐ水切り手段は、
 屋根面に平行な導水板と、導水板から立ち上がり煙突の周囲を覆う周壁とを有する外部水切り部材と、
 野地板上面または防水シート上面に密着して配置される固定板と、煙突の周囲を覆う周壁とを有する内部水切り部材とにより構成され、
 内部水切り部材を固定板下面と野地板上面または防水シート上面との間で液体の流通を封止する状態にして固定し、防水シート上の水の開口部への侵入を防止する
 屋根煙突貫通部の施工方法。


裁判所の認定
 被告が提出した証拠から、裁判所は以下の事実関係を認めました。
 ①被告は外部から遮るもののない状況下で、屋根職人とともにA邸(個人宅)の煙突取付工事を実施した。②A邸の工事日は、本件出願日よりも早い2007年6月28日である。③A邸の工事内容は、本件独立クレーム(請求項1及び3)の構成要件をすべて充足しており、これらの請求項には新規性が欠如している。④A邸の工事内容から、本件従属クレーム(請求項1に従属する請求項2及び請求項3に従属する請求項4)に容易に想到できるため、これらの請求項には進歩性が欠如している。以上により本件は無効にされるべきものであり、特許権の行使は認められないと判断されました。

証拠について
 被告は、A邸の工事中に撮影された工事記録写真および顧客カード等を証拠として提出し、本件出願日よりも前に本件特許権にかかる発明を公然実施していたことを主張しました。被告が提出した証拠の大半は、被告の社内で保管されていた内部資料です。訴訟を意識して作成された資料ではありません。
 原告は、以下のような事柄を指摘して、被告が提出した証拠の信憑性は低いと主張しました。
 ①写真データのプロパティは容易に変更できる。原告が主張する日に撮影したとはいえない。②写真中の煙突に錆や傷が写っているので、新築工事中の写真であるのか疑問である。③提出された写真が、本当にA邸の写真であるか疑わしい。
 裁判所は、上記①については、顧客カードに付与された管理番号、紙資料および電子データの管理状況等に基づいて、日付が改変されたことをうかがわせる証拠は存在しないと判断しました。上記②については、原告が錆や傷だと指摘した部分は、光の反射であると判断しました。上記③については、A氏の証言等もあり、被告が提出した写真はA邸の写真であると判断しました。
 日頃から業務に関する記録を適切に管理しておくことにより、万が一特許権侵害を疑われた場合であっても、防御できる可能性があります。

◆特許侵害に関するご相談は、お気軽に河野特許事務所までご連絡下さい。

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