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~強い特許権を作るために~

2020.7.3 弁理士 新井 景親

 特許権の効力が及ぶ最大の範囲は、独立項に記載された構成に基づいて決定されます。独立項とは、特許請求の範囲に記載された請求項の内、他の請求項を引用しない請求項をいいます。独立項に記載された構成を侵害被疑品が全て備える場合、特許権侵害が成立します。そのため、独立項に記載された構成が少ない程、侵害被疑品がそれらの構成を全て備える可能性は高まり、強い特許権となります。

特許第6469758号
 特許第6469758号(以下、本件特許)は、RFタグを読取る読取装置に関する特許権であり、独立項に記載された構成は4つだけです(下記参照。下線及び符号は筆者が追加)。
 『(A)物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、 前記RFタグと交信するための電波を放射する(B)アンテナと、前記アンテナを収容し、(C)前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部とを備え、前記(D)シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする読取装置。』
 本件特許は、例えば、箱(シールド部)にアンテナを設置し、RFタグを付けた商品を買い物カゴに入れた状態で、箱の開口に入れると、アンテナからの電波によって、RFタグから商品情報(商品名、金額等)を読み取ることができます(右図参照。一部用語は筆者が追加)。従来、電波の漏洩を防ぐ為に、開口に蓋をしていましたが、シールド部によって電波の放射範囲が限定されることから、必要ありません。そのため、上述の4構成を満たすだけで、特許権侵害が成立します。
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考察
 新型コロナの影響もあり、レジ作業の負担を最小限に抑えた無人レジの導入を多くの小売業者が検討していると考えられますが、蓋を必要とせず、カゴを開口に入れるだけで会計処理を行ってくれる無人レジを、構成数の少ない本件特許権の侵害を回避しつつ、導入するのは困難ではないでしょうか
 本件特許は、開口の向きが上向きに限定されているものの、上からカゴを入れるというのは、重力を利用した自然な動作であり、権利範囲を大きく狭めるものではないと考えます。開口を横に設けることで、侵害を回避することはできますが、重い商品の入ったカゴを横から入れるのは、商品購入者にとって負担が大きく、小売業者が無人レジとして採用するには問題があると考えます。
 なお本件特許権者はアパレル小売業者に対し、特許権侵害訴訟を提起しており、アパレル小売業者は本件特許権者に対し、無効審判を請求しています。

◆特許権について質問・相談がございましたら、お気軽に河野特許事務所まで御連絡ください。

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