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2020.8.3 弁理士 八木 まゆ
公正取引委員会は2020年6月、中小企業に関し「スタートアップの取引慣行に関する実態調査 中間報告」を発表しました。この実態調査では、スタートアップ企業の14.8%が、他社との連携時に「納得できない行為」を受けたと回答したことが注目されています。
・他社からの「納得できない行為」とは
非上場で且つ革新的であるとして選出されたスタートアップ企業の代表者へのアンケートが、2020年2月から約4ヶ月に亘って実施されました。有効な回答を返した1,447社の約半数は情報通信を事業としています。
アンケートでは、他社と共同研究をしたり、モノの製造を他社に依頼したり、製造したソフトウェアの販売を他社に依頼したり、といった連携時に、「納得できない行為」を受けた経験があるか否かが問われました。これに対し、先述の通り14.8%のスタートアップ企業が、「経験がある」と回答し、具体的に以下のような「納得できない行為」を挙げています(上記中間報告から抜粋)。
①秘密保持契約を交わした後であるにも関わらず、自社の重要な資料(アルゴリズム含む)を他者が第三者に開示することがあった。
②共同研究契約の内容が、主に自社のノウハウを用いて新たに生み出された発明等であっても,他社(大企業)に権利が帰属する条件になってしまっている。
③共同研究契約の下、自社の技術が詰まった製品の製作を他社(大企業)に依頼したところ、その技術に関連する特許を無断で特許出願されてしまった。
・知的財産で対抗する力を
他社との連携の際には是非、特許事務所に相談してください。
例えば①の行為に対しては、アルゴリズム部分について他者と契約する以前に、若しくは、他社へ資料を渡すより前に特許出願をしておけば、そのような事態になった場合に、不利益を最小限にできます。特許出願により、そのアルゴリズムは出願日には既に自社が確立していたものである、と主張できます。契約や資料譲渡が目前に迫っていて特許出願の準備が難しい状況であっても、論文をそのまま提出して出願日を認定してもらえる「仮出願」の制度等を使用できる可能性があります。特許事務所は、取引先への資料提供時の注意点などをアドバイスすることもできます。
②又は③のような事態には、共同研究が始まる前、又は進む前に特許出願しておくことが有効になります。共同研究が始まる前、進みつつあるときにできるだけ早めに相談してください。共同発明とせざるを得ない事情であっても、特許事務所は、単独での特許出願と共同出願を分けて出願するといった知財戦略の提言ができます。
7月号で紹介したアスタリスク社の特許はまさに、大企業にも対抗し得る強い武器だと言えます。スタートアップ企業こそ知的財産に関し強い権利を取得するか、先に出願しておくという防衛手段を備えたいところです。
公正取引委員会の報告を受けて、中小企業庁や特許庁は、発注企業と受注企業の間における知的財産を巡る取引適正化のために必要な対策を検討するための「知的財産取引検討会」など、上述した行為を是正するための制度充実に取り組んでいます。スタートアップ企業には費用に関する減免制度もありますので、特許事務所及び公的機関の知財関連事業を利活用してください。
◆特許出願について質問・相談がございましたら、お気軽に河野特許事務所まで御連絡ください。
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