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2020.9.1 弁理士 難波 裕
米国では2014年のAlice判決*1以後、発明の特許適格性(米国特許法101条)の判断が厳格になり、特許が無効となる事例が多く出ています。その中で、新たに発見した自然現象と従来技術を組み合わせた発明の特許適格性を肯定する判決が出たため御紹介します。
1.事件の経緯(Illumina Inc. v. Ariosa Diagnostics Inc.)
米国のIllumina社は、自社の2件の特許を侵害しているとしてAriosa社を提訴しました。Illumina社の特許は、胎児のDNA断片が母体のDNA断片よりも短いという特性を利用して、母体から採取した血漿又は血清から胎児のDNA断片を選択的に取り出す「DNA調製方法」(A method for preparing a DNA fraction)です。
Ariosa社は、Illumina社の特許は胎児DNAが母体DNAよりも短いという自然現象自体に向けられたものであるから特許適格性がないとして、特許を無効とする略式判決を地方裁判所に求めました。地方裁判所は申し立てを認め、2件の特許を無効としました。Illumina社は判決を不服として連邦巡回控訴裁判所(CAFC)に控訴しました。
2.判決
CAFCは、裁判官3名による合議の結果、2対1の判決で特許適格性を有すると判断し、審理を地方裁判所に差し戻しました。
多数派意見では、特許発明は遠心分離、電気泳動法等により母体DNAを除去して胎児DNAを選択的に取り出す方法であり、特許適格性を否定した判決*2,3とは異なり、単に母体DNAより短い胎児DNAを発見する方法ではなく、自然物質(胎児DNA)自体に向けられたものでもないと指摘しました。そして、遠心分離等の手段は従来技術であるものの、母体DNAを除去する際の閾値なども開示されており、従来技術を従来と異なる方法で使用するものと指摘しました。従って、特許発明は自然現象自体に向けられたものではなく、自然現象を利用する方法であるから、特許適格性を有すると判断しました*4。
一方で、1名の裁判官は反対意見を唱えました。反対意見では、胎児DNAが母体DNAよりも短いという特性は発明者による新たな発見であるが、胎児DNAを取り出す手段は従来技術に過ぎないと指摘しました。そして、自然現象に従来技術を付加しただけでは自然現象自体を独占させてしまう可能性があり、特許適格性を認めるには不十分であると指摘しました。
3.まとめ
Alice判決による特許適格性の判断の厳格化は実務的に混乱を生じさせていますが、最近ではAlice判決を見直すような判決も出ています。本判決もその潮流に乗ったものと言えそうですが、裁判官の判断が2対1で分かれているように、意見の集約にはまだまだ時間が掛かりそうです。今後の動向を注視する必要があります。
◆特許出願について質問・相談がございましたら、お気軽に河野特許事務所まで御連絡ください。
*1 Alice Corp. v. CLS Bank International.
*2 Ariosa Diagnostics, Inc. v. Sequenom, Inc.
*3 Association for Molecular Pathology v. Myriad Genetics, Inc.
*4 Alice判決のテストStep 1で特許適格性を有すると判断し、Step 2の分析に進まないと判断
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