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AI関連技術の特許出願の勧め

~学習モデルの選択的切替~

2020.10.1 弁理士 野口 富弘

 教師あり学習により学習モデルを生成するには大量のデータを準備し、学習データに正解値をラベリングするアノテーション作業が必要となります。精度の高い学習モデルを生成するためには、アノテーション作業が複雑になります。そこで、1つの学習モデルを生成する代わりに、より単純な複数の学習モデルを生成して使い分ける手法が用いられます。以下では、複数の学習モデルを用いてユーザからの問い合わせに対応する自動応答システムに関する発明(特許第6670916号)が特許になった理由を説明します。

1.本発明の概要
説明図
 本発明は、機械学習により生成された複数の学習モデルA、B、Cのうちから選択された学習モデルを用いて、所定分野の問い合わせに対応するチャット対応部と、チャット内容に応じてチャット対応部で使用する学習モデルを選択する選択部とを備えることにより、処理負担の軽減や迅速な回答を行うことができるものです。学習モデルA、Bは、それぞれ、ジャンルJ1についての知識が豊富なユーザ及び知識が豊富でないユーザに対応するための学習モデルであり、学習モデルCはジャンルJ2に対応するための学習モデルです。

2.学習モデルの選択的切替の特徴
(1)審査では、入力された発話に対して音声認識を行い、入力に対してそれぞれの話題分野における応答候補を出力するように調整された複数の対話装置と、入力された発話の分野を選択し、選択結果にしたがって、複数の対話装置のいずれが入力の応答に適切かを選択する音声対話システムが記載された引例が挙げられ、特許出願は新規性及び進歩性がないと判断されました。
(2)しかし、本発明は、出願人が、「選択部は、ユーザによって入力された問い合わせ内容の分析結果に基づいてユーザの知識レベルを特定する内容特定部と、特定された知識レベルに対応する学習モデルを選択して切り替える学習モデル切替部とを備える」という補正を行うことにより、引例との差別化を図り、異なる知識レベルを持つユーザに対してユーザ毎の適切な対応を行うことができる点に特徴があることを主張して、最終的に進歩性ありと判断されました。
(3)このように、単に「チャット内容」という広い概念ではなく、「ユーザの知識レベル」という一歩踏み込んだ条件を用いて、学習モデルを選択的に切り替えられるようにシステムを構成することにより、特許になる可能性があります。

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