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発明に対する大学院生の寄与

~論文に基づいて、共同発明者であると主張した裁判~

2020.11.2 弁理士 水沼 明子

 ノーベル賞の対象になり、オプジーボ®の開発に繋がった「PD-1」に関する特許について、元大学院生が自分も発明者の一員であることを認めて欲しい旨の裁判を起こしました。裁判所は、この元大学院生にも一定の貢献があることを認めつつも、発明者とは認められないと判断しました。

1.事件の概要
 事件番号:東京地裁 平成29年(ワ)第27378号 特許権持分一部移転登録手続き等請求事件
 対象特許権:特許第5885764号(以下、本件特許と言う)
 本件特許は、PD-1に関する特許の3世代目の分割出願です。請求項1は、下記の通りです。
「PD-1の免疫抑制シグナルを阻害する抗PD-L1抗体を有効成分として含む癌治療剤。」

2 原告の請求
 原告は、①発明者であることの確認、②特許権の一部移転登録手続き、③損害賠償(1,000万円)、④仮執行宣言 の4点を請求しました。原告が、自分も本件特許の発明者の一人であると主張する理由は以下の通りです。
(1)本件特許にかかる発明は、原告が大学院在籍中に行った実験結果やその分析から得られた知見をまとめた論文(以後PNAS論文)に基づく。
(2)PNAS論文の脚注には、A(本件の発明者の一人)と原告とは本研究に等しく貢献した旨の記載がある。
(3)明細書中の実施例1~3及び5に係る実験のほとんどは、原告が修士課程在籍中に行ったものである。原告は、自ら主体的に着想した実験計画を研究室のグループミーティングで報告し、その場で教授らから受けた意見や助言を踏まえて実験を進めることで、発明を具体化した。
 上記の事実関係については、争いはありません。

3 裁判所の判断
 裁判所は、以下のとおり判断しました。
(1)上記①の請求は、「給付の訴えである不法行為に基づく損害賠償請求をすれば足りる」から、確認の利益がなく、不適法である。
(2)原告は、本件特許に対して一定の貢献をしたと認められるものの、その貢献の度合いは限られたものである。原告を本件特許の発明者であると認めることはできない。したがって、上記②~④の請求は認められない。
[(1)について]
 原告は、人格権としての発明者名誉権を主張するとともに、判決に基づいて特許証の発明者に原告の名前を加えることを特許庁に求めるために、確認の利益があると主張しました。これに対して被告は、日本の特許法では登録後の特許に対して発明者の追加を求める手続きは規定されていないため、確認の利益はないと主張しました。裁判所は、被告の主張を認めました。なお、特許庁の方式審査便覧には、「願書に記載された発明者の補正は、出願が特許庁に係属している場合に限り認める。」と記載されています。すなわち特許庁は、登録後の発明者の補正を認めていません。発明者への追加、変更の要求は、特許の登録前に行なうことが必要です。
[(2)について]
 着想と具体化とのそれぞれの段階について、判断が行なわれました。原告が研究室に入る前に、PD-1とがん免疫との関係についての研究は開始されていたため、本件特許にかかる発明の技術的思想の着想に原告が関与していたとは認められませんでした。原告が行なった実験は、有効な抗体を最終的に選択する上で意味はあったが、抗体自体は原告が研究室に入った直後には研究室のW助手(発明者に含まれない)により作成されており、原告の貢献の度合いは限られていると判断されました。

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