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2021.2.1 弁理士 山田 浩忠
1.事件の経緯
特許権(特許第5079926号、他1件)は、4人の特許権者(原告X、被告人Y、A及びB)により共有され、共同出願契約が締結されていました。この契約には「事前の協議・許可なく,生産・販売行為を行った場合,権利は剥奪される」と定められていました。
当初、X、Y、A及びBは、共同して特許製品の実施(販売)をしていましたが、平成28年4月以降、Xは、他の共有者の許可を得ず、共同して販売していたときとは異なる態様で特許製品を独自に製造販売しました。
Xが独自販売等した理由は、Yから仕入れた特許製品の度重なる品質不良に対し善処を求めたものの改善がみられず、Yから取引を拒絶されたと判断したためです。平成29年4月以降、Yは、Xの許可を得ず、A及びBのみの許可を得て特許製品の販売を開始しました。
このような状況下、XとYとが共に相手方が共同出願契約に違反すると主張し、まずはYがXに対し、特許侵害訴訟を提起[東京地裁:平成28年(ワ)第19633号]しました。
XもYに対し、Yの販売行為は共同出願契約の債務不履行に該当し、Yは特許権の共有者ではない(無権利者である)ため、特許権侵害差止め及び損害賠償を提起[東京地裁: 平成31年(ワ)第4944号]しました。
Xの請求に対する東京地裁の判決は、「Xの請求は理由がない」として、Xの請求は認められませんでした。
2.知財高裁の判決[令和2年(ネ)第10016号]
知財高裁は、東京地裁の判決と同内容の判決を行い、Xによる控訴は棄却されました。東京地裁及び知財高裁において、共同出願契約に基づき、Xの特許権が剥奪されたかが争点となりました。
3.まとめ
特許出願が複数の出願人によってされた場合、複数の特許権者が共有する特許権(共有特許権)が発生します。特許法は、共有特許権に関し第七十三条2項「特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる」と定めており、各共有者は共有特許権を原則的に自由に実施してよいが、共同出願契約がある場合は契約内容「別段の定(実施には、他共有者の許可が必要)」が優先されます。
共同出願契約の「違反した場合は権利剥奪」は、かなり制約的な条項とも言えますが、民法の「契約自由の原則」により有効であり、知財高裁は、「Xは、他共有者の許可なく独自販売等を開始したことにより、権利を喪失(剥奪に相当)した」と判断しました。
Xは、権利を喪失した無権利者となりますので、YがXに提起した侵害訴訟においても敗訴し、損害賠償金をYに支払いました。
ベンチャービジネスにおいて、複数企業のコラボによる新規技術開発は、よくある形態と言え、開発成果物である発明を特許出願するにあたり共同出願契約が締結されることが一般的です。この契約に「別段の定」を含める必要があるか、まず検討すべきです。「別段の定」が必要な場合は、特許権の喪失を招くような過度な制約とならないように留意することが肝要であると思われます。
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