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コンピュータ関連発明における特許侵害


~コンテンツのみの模倣には均等・間接侵害で対抗~

2021.6.1 弁理士 新井 景親

 原告販売の「DVD」(原告製品)は「コンピュータを備える学習用具」に係る被告特許権を侵害しないことを求める差止請求権不存在確認訴訟(大阪地裁 事件番号 平31(ワ)3273号 令和3年3月25日判決)において、「原告製品」の生産等は間接侵害に該当すると判示されました。以下、本事件について説明します。
本件特許発明の内容(特許第4085311号)

fig1 特許発明は左図に示すように、原画、第一の関連画(抽象画)、第二の関連画(漫画)それぞれの画像データを対応する語句と共に「組画」として記憶したコンピュータを備える学習用具です。組画は複数記憶され、選択された組画の原画、第一の関連画、第二の関連画が語句の音声と同期して表示されます。(左図の出典:上記判決より抜粋)

原告製品の内容
 原告製品は原画及び複数の関連画それぞれの画像データを、対応する語句と共に「組画」として記憶したDVDです。DVDを再生装置で再生した場合、原画及び関連画が語句の音声と同期して表示されます。

裁判所の判断
 裁判所は、原告製品の販売等は特許権を直接侵害しないが、「原告製品を使用したコンピュータ」は、コンピュータを備える学習用具に該当すると認定しました。なおコンピュータは再生装置を含みます。
 そして「原告製品を使用したコンピュータ」と、特許発明との各構成要件を比較し、特許発明の本質的部分は、『組画が記憶され、組画の原画、第一の関連画、第二の関連画が語句の音声再生と同期して表示されること』にあるとし、「原告製品を使用したコンピュータ」は本質的部分を備え、特許発明と「原告製品を使用したコンピュータ」との相違点は本質的部分ではなく、均等の第1要件を満たすとしました。更に均等の他の4要件も満たすことから、「原告製品を使用したコンピュータ」は特許発明の技術的範囲に属すると認定しました。原告は、覚えにくい記憶対象に関する組画を繰り返し選択して表示することによって学習能率が向上するという作用効果を奏するので、本質的部分は一の組画を任意に「選択」することにあると主張しましたが、裁判所は、出願経過における意見書を見ても「選択」の意義に関する言及はないことから、これを採用しませんでした。
 その上で、「原告製品」は、コンピュータにより再生されて使用されるものであって、それ以外の用途があるとは考え難く、原告製品の生産等は間接侵害に該当する(特許法101条1号)と判示しました。被告は、「原告製品を使用したコンピュータ」は、特許発明の構成の全てを備えるものではなく、間接侵害は成立しないと主張しましたが、裁判所はこれを採用しませんでした。

考察
 「原告製品」と特許発明とを比較した場合、「原告製品」は記録媒体に過ぎず、画像及び音声を再生することはできないので、本質的部分において両者は異なります。裁判所は、「原告製品を使用したコンピュータ」と特許発明とを比較して、均等及び間接侵害の成立を認めており、コンテンツのみを模倣された特許権者にとって有用な裁判例であると考えます。

◆特許侵害について質問・相談がございましたら、お気軽に河野特許事務所までご連絡ください。


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