2021年5月14日、特許法、意匠法、商標法等の一部を改正する法律が成立し、同5月21日に公布されました。今回の改正には、商標・意匠に係る輸入差し止めを強化する事項が含まれています。
<背景>
意匠権、商標権の権利侵害には、その対象物の製造・販売以外に、「輸入」も含まれ、権利侵害に対しては差し止めが可能です。例えば、下の図の上のルートに示されているように、国内事業者が侵害品(偽物)を輸入して個人へ販売しようとした場合、販売のみならず、その国内事業者による輸入を税関にて差し止めることが可能です。
侵害として認められる行為は原則、「業として」実施されていることが条件です。したがって、これまでは、下の図の下のルートに示されているように、個人がその商品をECサイトなどを介して直接購入する行為は、日本国内の他のエンドユーザ向けに販売するためではない、つまり「業として」ではないため、侵害品であっても「輸入」は侵害となりません。
|
(特許庁資料より引用) |
2020年は、税関における知的財産侵害物品の輸入差止件数が30,305件(物品点数は589,000点)と2019年に比べて26.6%増加しています(財務省の発表)。更に、侵害によって差し止められないケースが近年増えています。「侵害品」を見つけた税関が差し止めようとしても、輸入した者が、上述したように個人使用目的での輸入なので侵害ではないと反論すれば、税関は反証が困難なために止められないからです。
このように、これまでの「輸入」行為の規定では、侵害品であっても国内流入を阻止することができませんでした。
<改正概要>
このような事情を鑑みて、商標法には2021年改正により、
「輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする」という条文(商標法第二条第7項)が追加され、意匠法も同様の規定が加わります。これにより、上の図の下のルート、即ち、個人が直接的に輸入するケースでも、侵害品を税関で差し止められるようになります。
商標法・意匠法の権利が及ぶ範囲は国内ですので、「海外事業者」を「侵害」であるとして訴え出ることは困難であり、また実際に個人使用している個人を訴え出ることはできないのですが、
海外事業者を侵害の主体とし、明らかな侵害品について国内に到達した後の流通を止めることができるようになります。特許権については、侵害品であるか否かの判断が比較的困難であり、このような流入のほとんど(2020年では97.6%)が商標権侵害品であるため、今回は改正の対象外となりました。
<改正後、権利者ができること>
侵害品として税関で差し止めをするには、商標権あるいは意匠権を根拠に、事前に輸入差止申立手続きをしておくことが有効です。
◆知的財産権の取得、侵害の虞に関するご相談は河野特許事務所までお気軽に御連絡下さい。
閉じる