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2021.8.3 弁理士 山田 浩忠
1.事件の経緯
LEDに関する特許権(特許第5177317号、他2件)の侵害訴訟「東京地裁:平成29(ワ)27238」が行われ、特許権者である原告Xの主張(1億3200万円の請求)に対し、被告Yの特許権侵害が認められ、損害賠償額は、特許法102条3項(以降、本条項)の実施料相当額(約1645万円)と算定されました。
被告Yの製品は、LED(部品)が組み込まれたテレビ(完成品)でしたが、原告Xの特許権はLED(部品)であったため、東京地裁は、LEDの価格に基づき実施料相当額を算定しました。テレビ1台にLED(9円/個)は24個搭載され、216円/台となります。本条項に基づく実施料相当額は、被告製品1台あたり20円(2015年10月まで)又は30円(左記以降)が相当であるとされ、被告製品の販台数に基づき約1645万円とされました。
東京地裁の判決に対し、原告X及び被告Yの双方が控訴しました。原告Xの控訴理由は、テレビの単価(約3万4129円)に対する実施料率が0.058%又は0.087%となり、実施料相当額が不適切であるとするものです。
2.知財高裁の判決[令和2年(ネ)第10025号]
知財高裁は、原告Xの控訴理由を認め、原判決の損害賠償請求額を1億3200万円に変更しました。知財高裁は、「本条項は、特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定である。同項による損害は、原則として侵害品の売上高を基準とし、そこに実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである」と判断しました。 実施料率を乗じる基礎(ロイヤルティベース)については、「①LEDは、テレビ(被告Y製品)の基幹的部品の一つであり、被告Y製品からの分離困難、②とのLEDを用いて製造するかは、テレビのコストに影響大、③LEDの特性を活かした完成品(テレビ)の販売による収益を得ていた等を理由に、テレビ(被告Y製品)の売上を基礎に実施料相当額を算定するのが相当である」と判断しました。
当該判断は、知財高裁の大合議判決(平成30年(ネ)第10063号)を規範としています。
知財高裁は、「被告Y製品の売上を基礎とした場合の実施料率は、0.5%を下回るものではないと認めるのが相当」と判断し、被告Y製品の総売上高は約249億3368万円であり実施料率0.5%を乗じると、実施料相当額は約1億2466万円であるとしました。
3.まとめ
これまでは、特許発明に係る物の額をロイヤリティベースとする考え方(平成22年(ネ)第10032号等)が主流でした。これに対し、特許発明に係る物(部品)と、当該部品を含む製品との技術的関係性、代替可能性、売上貢献等を総合的に考慮し、部品に関する特許権(請求項)であっても、当該部品(特許発明に係る物)を含む製品の販売額がロイヤリティベースとなり得ることを示した点で、知財高裁の判断は、大合議判決を鑑み、部品と製品との関係を市場的な視点から考慮した画期的なものであると考えられます。
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