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方法発明を特許法の保護対象とするために


~技術的手段の捉え方~

2021.9.1 弁理士 野口 富弘

1.発明の概要
 本件発明は、①電子記録債権の額に応じた金額(債権の額から割引料を差し引いた額)を債権者の口座に振り込むための第1の振込信号を送信すること、②電子記録債権の割引料を債務者の口座から引き落とすための第1の引落信号を送信すること、③電子記録債権の額(元本)を債務者の口座から引き落とすための第2の引落信号を送信することを含む、「電子記録債権の決済方法」です(特願2018-193836号)。


2.審決の概要
 原告Xは、「電子記録債権の決済方法」に関して、技術的事項として特定する記載がなく、特許法の保護対象に該当しないとして、拒絶理由通知を受けました。原告Xは、補正をしましたが、拒絶査定を受けました。原告Xは、さらに、拒絶査定不服審判を請求しましたが、特許庁は、本件発明の①~③の各構成要件の本質は、金融取引上の業務手順という人為的な取り決めに基づくビジネスルール自体に向けられたものであるから、特許法の保護対象に該当しないと判断しました。原告Xは、当該審決に対して審決取消訴訟を提起しました(令和元年(行ケ)第10110号)。

3.知財高裁の判断
 知財高裁は、(1)本件発明が解決しようとする課題は、債務者や債権者の事務負担や管理コストを増大させることなく、本件発明の出願前に改訂された下請法の運用基準の趣旨(割引料負担を債権者ではなく債務者に求めること)を反映できる電子記録債権の決済方法を提供することであり、(2)本件発明の構成要件のうち、構成要件③は、下請法の運用基準の改訂前後で取扱いに変更ないから、構成要件①及び②が、課題を解決するための技術的手段であり、(3)一方で、如何なる技術的手段によって、債務者や債権者の事務負担や管理コストを増大させないという効果を奏するのかは明確でないと認定した上で、本件発明の技術的意義は、電子記録債権の割引における割引料を債務者負担としたことに尽きるといえるから、本件発明の本質は、専ら取引決済についての人為的な取り決めそのものに向けられたものであると判断して、原告Xの請求を棄却しました。

4.技術的手段の捉え方
 「特許を受けようとする発明」は、「信号」や「送信」という一見技術的手段に見えるものが構成に含まれているとしても、前提とする技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成、その構成から導かれる効果等の技術的意義に照らして、特許法の保護対象であるか否かが判断されます。
 一定の技術的課題が設定された場合、その課題を解決するための技術的手段を採用し、その技術的手段により所期の目的が達成し得るという効果が得られるかを確認することが重要です。

◆発明に関するご相談は河野特許事務所までお気軽に御連絡下さい。

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