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発明報償規定に漏れはありませんか?

~特許出願しなかった発明に対する対価~

2021.11.2 弁理士 新井 景親

 特許出願しなかった職務発明について、特許法35条第3項(平成16年改正前)に基づき,元従業員(控訴人)が元使用者(被控訴人)に対価請求を求めた訴訟において、知財高裁は前記職務発明(以下、ノウハウ)には特許性が認められないとして対価請求を認めませんでした(令2(ネ)10048号、令和3年5月31日判決)。以下、本事件について説明します。

ノウハウの内容
 本件ノウハウは、競馬のレース結果を予想するゲーム(予想ゲーム)にプレイヤーが馬主として競走馬(プレイヤー馬)を生産して所有し,調教後レースに出走させ,その成績によって賞金(メダル)を得るゲーム(馬主ゲーム)を加えた競馬ゲームに関するものです。何らの工夫もなく競馬ゲームを設計すると、能力値の高い馬はメダル獲得の期待値が高いことから,プレイヤーが能力値の高い馬ばかりを購入し、馬主ゲームの面白みが失われ、他方で各馬の能力値を同一にすると、予想ゲームのオッズが同一になり、予想ゲームの面白みが失われます。本件ノウハウはプレイヤー馬に活力値(レース出走時の出走料のメダルでの支払い,レースで得た賞金、及び調教・餌やり等の育成過程によって増加する指標)を導入し、レースで消費した活力値と賞金等で得られる活力値の期待値とを等しくし,馬ごとの不公平さをなくすものです。

控訴人の主張
 プレイヤー馬について能力値とは異なる活力値を導入し,投資(活力値)に応じた期待値を設定すること等によって、本件ノウハウはリアルさ,臨場感等を醸成し,プレイヤーを惹きつけることに成功し、被控訴人は利益を上げた。控訴人は、その特許を受ける権利を被控訴人に承継させたと主張して対価請求しました。

被控訴人の主張
 対価請求権が認められるためには、特許を受ける権利として特許性を備えるものでなければならないが、本件ノウハウの考案前に、他社の予想ゲームと馬主ゲームとを組み合わせた競馬ゲームを紹介する雑誌記事があり、当業者は同競馬ゲームが本件ノウハウの要素を備えることを推認するから、本件ノウハウは進歩性を欠き、特許性が肯定されるものではなく、対価請求権はないと主張しました。

裁判所の判断
 裁判所は、本件ノウハウは,特許登録されていない職務発明として主張され,特許性を有する発明でなければ,これを実施することによって独占の利益が生じたものということはできず,特許法35条3項に基づく相当の対価を請求することはできないと解され、上記競馬ゲームを設計する場合、能力値とは別の指標を導入するのは必然であり、また消費活力値と増加活力値の期待値が等しくなるよう数値調整することは,課題解決のために当然に採られ得る手段であり、本件ノウハウは特許性を有する発明であるとは認められず、被控訴人に独占の利益が生じたものとはいえないから、対価請求権は認められないとしました。

考察
 会社で開発した技術をノウハウとして秘匿することがあります。会社の発明報償規定が出願時又は登録時にのみ、対価を支払う内容である場合、ノウハウを開発した従業員に対価を支払うことはありません。しかし、本判決によれば、秘匿したノウハウに特許性が認められると、従業員は後に対価の支払いを会社に求め得ると解釈されるおそれがあります。従って、後々の争いを避けるために、会社において特許性有りと判断したノウハウには対価を支払う規定を設けておくのがよいと考えられます。

◆職務発明について質問・相談がございましたら、お気軽に河野特許事務所までご連絡ください。

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