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2022.3.1 弁理士 水沼 明子
デザインに工夫を凝らした製品に関しては、意匠権による保護が有効です。新しい製品を量産して販売するまでの間には、様々な職種の人の協力が必要であり、製品の外観に影響を及ぼすようなアイディアが協力者から提供される場合もあります。意匠の創作者に関する争いの裁判例を紹介します。
1. 事件の概要(令和3年(ネ)第10077号 損害賠償請求控訴事件)
被告は、「入れ歯入れ容器(以下本件製品という)
」にかかる本件登録意匠の創作者兼意匠権者(以下被告Aという)と、被告Aが代表取締役を務め、本件製品を製造販売する企業(以下被告Bという)です。
原告は、本件製品の製造に使用されている金型を作成した企業の代表者です。
原告は、本件意匠の創作者は自分であり、被告Aによる意匠権の出願および意匠権の維持と、被告Bによる本件製品の製造販売とは、原告の権利を侵害する不法行為であると主張して、不法行為による損害賠償を請求しました。
2. 本件登録意匠 (意匠登録1124884号)
意匠に係る物品は、就寝するときなどに外した入れ歯を保管しておく容器です。
右側面図 参考斜視図
3. 裁判所の判断
裁判所は、右側面図に太矢印で示すヒンジ部分を、原告が提案し、設計したという主張を認めました。
その上で裁判所は、以下の理由で原告は本件登録意匠の創作者とは認められないと判断しました。
①ヒンジ部分の形状は、「蓋を開けるとまず少し開き、更に開くと120度位の角度で止まることになるため、高齢者でも容器内の水や洗浄液をこぼすことなくスムーズに開けることができる」という機能を実現するために不可欠の形状であるため、意匠としては保護されない。
②ヒンジ部分以外も原告の創作であるという主張を裏付ける証拠はない。ヒンジ部分は、製品全体の形状のごく一部を占めるに過ぎず、本件製品が視覚を通じておこさせる美観には大きな影響を及ぼさない。
4.まとめ
製品化の過程で、外注先等から製品の外観に影響を及ぼすような提案を受けた場合であっても、「機能を実現するために不可欠な形状」に関する提案、または、「美観に大きな影響を及ぼさない」提案であれば、提案者を意匠の創作者に加える必要はありません。
逆に外注先の立場で発注者に対して提案を行なう場合には、発注者から提示された資料と、自らが提案した内容とを記録に残し、創作に対してどのように寄与したかを明確に記録しておくことが重要です。
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