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2022.6.6 弁理士 山田 浩忠
1.事件の経緯
携帯端末を用いた遠隔監視方法の特許権(特許第4750927号)の侵害訴訟「東京地裁:令和元年(ワ)第21597号」で原告(特許権者)の主張が認められなかったため、原告は、知財高裁に控訴しました。
2.知財高裁の判決[令和3年(ネ)第10058号]
原告の特許発明は、監視装置から情報を受理し、所定のデータを携帯端末に伝達する遠隔監視方法に関するものです。この遠隔監視方法は、監視装置からの画像の中央部分の領域をコンテンツとして形成し携帯端末に伝達します。更に、携帯端末から命令(他領域の画像の参照命令を示すパンニング)を受理し、命令(パンニング)に従って、中央部分の画像の領域から、縦横又は左右にずらした画像の領域にてコンテンツを形成し、携帯端末に伝達します。請求項に記載された「携帯端末」の解釈が争点の1つとなりました。被告製品は遠隔監視カメラシステムであり、監視カメラからの画像をデスクトップ型のパソコン(PC)に表示します。
被告は、PC等の固定端末についての記載が請求項になく、技術的範囲は携帯端末に限定され、PC等の固定端末には及ばないと主張しました。原告は、被告製品は固定式モニタのデスクトップPCのみに対応した仕様とはいえず、携帯可能なノートPCの利用も当然想定しているから、被告製品を「固定式のモニタ」に限定した地裁判決の判断は誤りであるとし、更に、出願時にはノートPCが主流であり、PCを携帯端末と称しても何ら差し支えず、被告製品は携帯端末を備えると主張しました。
知財高裁は、「携帯端末は、通常の用語からすると携帯することが可能である端末であると理解することはできるが、携帯することが可能である端末は種々のものが想定されるため、その端末の種別は特許請求の範囲からは必ずしも一義的に明確に定義することはできない」としました。そこで明細書の記載が参酌され、「中央部の所定の範囲の画像とするのが望ましい。これは、携帯端末の表示装置は非常に小さいため、全体を表示すると、顧客により認識不可能な画像となる可能性がある」等の記載により、携帯端末は、表示装置が小さい端末であり、典型的には携帯電話端末を念頭に置いたものであり、少なくともパソコンとは別の端末であると解することができるとし、非侵害であると判断しました。
3.考察
請求項に記載された用語は、明細書(実施例)の記載に基づき解釈され(特許法70条2項)、特許請求の範囲の記載の文言が一義的に明確であるか否かを問わず、発明の詳細な説明等の記載を考慮して特許請求の範囲の解釈を行うべきとされています(知財高裁:平成18年(ネ)第10007号)。70条2項の趣旨により携帯端末が上記のように解釈されました。本件において、もし「端末装置」と請求項に記載され、端末装置は、スマートホン等の携帯端末及びPC等の固定端末を含むと実施例に記載されていたなら知財高裁の判断は異なったと思われます。
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