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医薬の発明の特定用途への利用

~医薬として使用できることを当業者が
理解できることが必要~

2022.7.1 弁理士 野口 富弘

1.発明の概要
 本願発明は、「フォンタン手術を受けた患者における、最大努力時VO2により測定される運動耐容能の改善用の医薬組成物であって、ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩を含み、該ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩の投与量が1回当り87.5mgであり、前記組成物が1日2回投与される、医薬組成物」です(特願2017-504434号)。

  (注) 「フォンタン手術」:機能的単心室先天性心疾患をもって生まれてきた子供たちに対する緩和的外科的処置
「ウデナフィル」:勃起不全を治療するために泌尿器学で使用される薬
「VO2」:酸素摂取量

2.審決の概要
 特許庁は、本願明細書には、本願発明の医薬組成物の使用をすることができることを、当業者が理解することができる程度に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号の実施可能要件を満たしていないとして「拒絶査定不服審判の請求は成り立たない」との審決をしました。原告Xは、本件審決に対して審決取消訴訟を提起しました(令和2年(行ケ)第10122号)。

3.知財高裁の判断
(1)知財高裁は、本願発明は、ウデナフィルを特定量投与する医薬組成物であり、医薬についての用途発明であるから、本願発明が実施可能要件を満たすためには、ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩の、「1回当り87.5mg、1日2回の投与」(本件処方)により、フォンタン手術を受けた患者において、最大努力時VO2により測定される運動耐容能の改善に使用できることが、当業者が理解できるように記載されている必要があると判断しました。

(2)そして、本願明細書に記載の試験結果によれば、①本件処方の投与前の最大努力時VO2の平均値が「28.0±5.2」、投与後の最大努力時VO2の平均値が「28.2±6.0」、変化スコアの平均値が「0.2±5.0」であり、本件処方における変化スコアの平均値は小さい一方で、ばらつきが非常に大きな値であること、②最大努力時VO2が正に変化した場合と負に変化した場合の理由が明らかでないこと、③ウデナフィルが運動耐容能を改善するとの技術常識があるとも認められないこと等を踏まえると、本件処方のコホートにおいて、5名中2名の最大努力時VO2が正に変化したという試験結果のみをもって、ウデナフィルの本件処方により、最大努力時VO2が改善したものであるとまで理解できないと判断し、原告Xの請求を棄却しました。

4.医薬の用途発明における実施可能要件
 医薬の用途発明においては、発明の詳細な説明に、有効量、投与方法、製剤化のための事項がある程度記載されていても、それだけでは、当業者が当該医薬を実際にその用途において利用できるかどうかを予測することは困難です。実施可能要件を満たすためには、明細書において、医薬用途に利用できることを薬理データ又はこれと同視できる程度の事項を記載して、その医薬を製造することができるだけでなく、出願時の技術常識に照らして、当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解できるように記載する必要があります。

◆ 発明に関するご相談は、お気軽に河野特許事務所までお問い合わせください。

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