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AIは発明者になれない

~ 欧州特許庁審判部が拒絶審決 ~

2022.8.1 弁理士 水沼 明子

 2020年4月の本ニュースにて、欧州特許庁(以後EPOという)がAIを発明者とする特許出願を認めないと判断した旨をお知らせしました。その後、出願人は不服審判を請求しました。EPOの審判部から、拒絶審決が発行されたので、概要を紹介します。

1.経緯
 本件は、EP3564144とEP3563896との2件の欧州特許出願です。いずれも出願時には、発明者を示す書類が添付されていませんでした。
 その後、本件の発明者は「DABUSと名付けられた機械(A machine called "DABUS")」であり、本件の出願人(Thaler氏)はAI発明者(DABUS)の所有者であることにより、特許を受ける権利をAI発明者から承継した旨が、EPOに提出されました。
 EPOは、2件とも拒絶しました。出願人は2件の審判を請求しました。
 審判は併合審理で進められました。審判の過程で、出願人は後述する予備的請求を追加しました。口頭審理を経て、EPO審判部は2件とも拒絶しました。

2.EPO審判部の判断
 出願人の主位的請求、予備的請求それぞれに対する判断の概要を記載します。

(1) 主位的請求(DABUSは発明者と認められるべきである)について
 EPC81条によると、欧州特許出願において発明者の記載は出願の必須要件です。
 「発明者」という用語の通常の意味(Oxford Dictionary of English 等を参照しています)によると、発明者は法的能力を有する人でなければなりません。通常の意味から逸脱した特殊な方法で、EPOが「発明者」を解釈するべき理由はありません。したがって、EPOが機械を発明者として認定する必要はありません。
 以上により本件はEPC81条の要件を満たさないため、拒絶されます
 この判断は、拒絶査定の内容と同様ですが、機械は発明者であると認められない理由が欧州特許法の条文に沿って詳細に記載されています。

(2) 予備的請求(発明者の記載を、「本発明はDABUSにより自動的に考案された("the invention was conceived autonomously by DABUS")」と補正する)について
 EPC81条によると、発明者と出願人とが異なる場合には、出願人が特許を受ける権利を有することに関する陳述が必要です。EPC60条によると、特許を受ける権利を得る方法は、①発明者であること、②発明者から特許を受ける権利を承継すること、の2つです。
 出願人はDABUSの所有者であることにより、特許を受ける権利をDABUSから承継したと主張しています。しかしながら、機械は発明者と認められないため、出願人の主張は出願人が本件の特許を受ける権利を法的に承継したことを説明していません。
 以上により、予備的請求の補正によっても、本件は拒絶されます

3.まとめ
 EPO審判部は、現在の欧州特許法では「発明者」は人間に限られていると判断し、この判断を覆すための法改定はEPOではなく、欧州特許機構の管理理事会の役割であると指摘しました。

◆ 特許出願に関するご相談は、お気軽に河野特許事務所までお問い合わせください。

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