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2022.9.1 弁理士 新井 景親
特許法第102条第2項は侵害者が得た利益を特許権者が受けた損害額と推定する旨、規定します。一方で損害と侵害行為との間の因果関係を否定する事情(覆滅事由)がある場合、損害額の一部又は全部を減らせます。2022年6月9日に「自立式手動昇降スクリーン」に係る特許権者(原告)がスクリーンを製造販売する被告を特許権侵害で訴えた事件について、大阪地裁で判決が出されました(令和元年(ワ)9842号)。裁判所は、侵害者が得た利益を特許権者が受けた損害額と推定した上で、損害額の一部は覆滅される旨、判示しました。以下判決について説明します。
推定覆滅事由について
被告は推定覆滅事由として、(1)本件特許発明は従来技術にスライド部材を加えただけのものであって、従来型のスクリーンの効果を超える顕著な効果もないので、本件特許の果たすべき機能の重要性は極めて低く、(2)被告製品販売総数の87.9%はユーザ登録が必要な通信販売サイトを介して販売されているが、登録ユーザは通販サイトの冊子又はウェブカタログのみ確認し、被告製品と販売経路が重ならないので、通販業者を介した販売は覆滅されるべきであり、(3)可搬性があり脚で支える映写用スクリーンであって、原告製品と正面外観が類似するもの、即ち競合品が多数存在し、(4)被告は総合文房具メーカーとして我が国2位であり、継続的に多種多様なメディアで取り上げられ、被告の営業努力による被告製品の売上貢献が認められる旨、主張しました。
裁判所の判断について
裁判所は、(1)本件発明の効果は、簡素な構成により、スクリーンをスムーズかつ安定良く支持することが可能となるなど、スクリーンの基本的な機能に関わり、相当程度の顧客誘引力を生じさせ、(2)通販サイトのユーザがスクリーンを購入する場合、必ずカタログに掲載された商品のみから購入する商品を選択するとは認め難く、相当数のユーザはECサイト等で他の商品と比較検討すると考えられ、販売経路が重ならないことの影響は限定的に解すべきであり、(3)2本のアームが上端支持部材に2点で連結された被告製品と同様なパンタグラフ式スクリーンは競合品に該当し、一方商品の表示上も明確に区別される三脚式・ポール式のものは競合品であるとは認められない。乙号証からは三脚式でないものを販売する業者は複数存在することが認められるが、商品数が多いとまではいえず、しかも、それらのスクリーンのうち前記パンタグラフ式スクリーンの数はさらに限定されると解され、競合品が多数存在するとまでは認められず、(4)原告のスクリーンの国内シェアは16.7%であり、国内トップ4の企業であることが認められ、少なくともスクリーンの販売に関しては、通常の範囲を超える被告の営業努力は認められず、以上の事情を総合的に考慮すれば、2割の限度で損害額の推定が覆滅されるものと解するのが相当であると判示しました。
考察
販売経路が重ならないにも拘わらず、5割(平成29年(ワ)第24571号)又は9割(平成30年(ワ)第21900号)の覆滅が認められた裁判例があることを考えると、その評価は低いものでした。評価を高くするためには、例えば販売経路のみならず購入者層も全く異なり、市場が同一でないことをも示す必要があったと考えます。
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