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特許権利範囲の解釈

~構成要件がもたらす作用効果が根拠になる

2022.10.3 弁理士 八木 まゆ

 被告製品が特許権の権利範囲に属するか否かは、特許請求の範囲の請求項に記載されている「構成要件」を満たすか否かで判断されます。「構成要件」について、東京地裁と知財高裁とで異なる判断がされた例(令和2(ネ)10042)を紹介します。

<特許権に係る発明の概要>
 本件に係る発明(特許第5769141号、特許第6159845号)は、有料道路のETCシステムに関するものです。ETC非対応の車両を検知すると、ETC用ゲートの手前で、異なるゲートへその車両を誘導し、且つ、車両の進行に応じて各所に設けられた遮断機を上下させて立ち往生等を防ぐ、という発明です。
 本件の2つの発明は、同一の出願からの分割出願に基づくものであり、以下の3つの構成要件を共通に含みます。
 B「前記有料道路料金所、サービスエリア又はパーキングエリアに出入りをする車両を検知する第1の検知手段」
 C「前記第1の検知手段に対応して設置された第1の遮断機」
 D「車両に搭載されたETC車載器とデータを通信する通信手段」

<被告システム>

 被告システムは、スマートインターチェンジと呼ばれるETC搭載車両専用のインターチェンジです。

<原判決>

 東京地裁は、上述の構成要件B、C、Dについて、構成要件B、C、Dが本件の発明の技術課題を解決するために採用した構成である以上、「第1の遮断器」(構成要件C)は「通信手段」(構成要件D)よりもレーンの入口側に位置することが必要というべきで、その位置関係によって技術的意義があるものというべきであり、位置関係が異なる被告システムは、権利範囲に属さない、と判断しました。

<知財高裁での判断>

  これに対し知財高裁は、特許請求の範囲には、構成要件B、C、Dが設置される「位置関係を特定する記載はないから、それぞれが設置される位置関係によって構成要件該当性が左右されるものではないというべきである。」、そして通信手段(構成要件D)は、「車両が第1の遮断機(構成要件C)を通過する前後のいずれであっても、本件作用効果を奏することが可能である」(括弧書き及び下線は筆者)と判断しました。
 知財高裁はさらに、本件明細書には、第1の遮断機(構成要件C)及び第1の検知手段(構成要件B)の先に通信手段(構成要件D)が位置する構成が記載されているが(【図4】)、「これは実施例にすぎないというべきであって、上記に照らすと、本件各発明について、上記構成に限定して解釈すべき理由はない」(下線は筆者)と指摘しました。 知財高裁は、結論として、被告システムは本件に係る発明の技術範囲に属する、と判断しました。

<考察>
 構成要件がもたらす作用効果から、上述のように明細書の実施例に限定されない解釈がされる可能性があり、逆に言えば、特定の構成に絞った場合の作用効果が明細書に記載されていた場合、解釈の範囲が狭められていた可能性があります。本件については、特定の位置関係の実施例は記載していたものの、その「位置関係による作用効果」を主張しなかったことが功を奏していたものと考えます。

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