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特許進歩性判断での阻害要因

~引用発明と周知技術の組み合わせを否定!~

2022.11.4 弁理士 山田 浩忠

1.事件の経緯
  電気絶縁ケーブルの特許出願(特願2019-166439)の拒絶審決を不服とし、出願人は審決取消訴訟を提起しました。本件発明の電気絶縁ケーブルは、撚り合した複数のコア材を巻くテープ部材とテープ部材上に形成されたシースとを備え、コア材の取出作業の効率向上を解決課題とします。審判にて、電気絶縁ケーブルに関する引用発明と周知技術との組合せにより進歩性欠如と判断されました。引用発明は、撚り合した電源用線心及び信号用線心(コア材)の外周をシースで被覆する構成を開示し、コア材の取出の容易化を解決課題とします。撚り合して形成されたコア材とシースとの間にテープ部材を配置することは、様々な用途や目的のケーブルにおいて用いられる周知技術であると認定されました。

2.知財高裁の判決[令和3年(行ケ)第10082号]
 引用発明及び周知技術の技術分野は共通であり、引用発明に周知技術を適用し、撚り合した複数の線心をテープ部材で巻き、コア材とシースとの間にテープ部材が配置される構成にするという、当業者に対する動機付けは存在し得る。しかしながら、本願発明は、従来のケーブルにはコア材を取り出す作業の際に粉体が周囲に飛散し、作業性が低下してしまうという課題があり、コア材とシースとの間にテープ部材を備える構成とする点に技術的意義を有する。引用発明と本願発明は、課題が共通であるが、引用発明は電源用線心及び信号用線心の外周をシースで覆うのみの形で被覆する構成であり、課題解決の手段は異なる。このように、引用発明においては、本願発明と共通する課題が本願発明とは異なる別の手段によって既に解決されているのであるから、当該課題解決手段に加えて、両線心をテープ部材で巻き、両線心とシースとの間にテープ部材が配置される構成とする必要はない。引用発明に当該構成を加えると、線心を取り出そうとする際、シースを除去する作業のみでは足りず、テープ部材を除去する作業が必要となり作業性が損なわれ、引用発明が奏する効果を損なう結果となる。また、当該効果を犠牲にしてまで電源用線心及び信号用線心をテープ部材で巻くことに技術的意義があるとする示唆も、引用発明には記載されていない。従って、引用発明に周知技術を適用することには阻害要因があり、引用発明及び周知技術に基づいて容易に想到し得たものとはいえないとして拒絶審決は誤りであると判示され、最終的に特許となりました

3.考察
 審査基準には、阻害要因の4類型の1つとして、副引用発明(本件では周知技術が相当)が「(i)主引用発明に適用されると、主引用発明がその目的に反するものとなるような副引用発明」と記載されており、本件は(i)に相当するため判決は妥当であると考えます。引用発明との差異が周知技術であっても、引用発明と周知技術との組合せに阻害要因が認定されることがあり、進歩性判断の検討において阻害要因の有無を確認することが重要であることを改めて認識されます。

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