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2023.1.4 弁理士 水沼 明子
特許明細書の冒頭部分には、先行技術文献を挙げて背景技術を説明するとともに、問題点(=課題)を指摘し、特許請求の範囲の発明により問題点が解決されることを記載します。背景技術の記載が出願人に不利に働いた裁判例を紹介します。
1.事件の概要(令和3年(ワ)第11507号 損害賠償等請求事件)
原告は、特許5133707号(以下本件という)の特許権者です。原告は、被告が製造販売する膝用サポーターが本件を侵害していると主張して、損害賠償を請求しました。
本件請求項1を構成要件ごとに分け、符号を付して示します。
A:伸縮性素材より成り膝部に着用し得る形態の本体を具備し、上記本体よりも伸縮性の低い低伸縮領域を本体に設け、上記低伸縮領域と本体の伸縮性の相違により膝関節部及び周囲筋腱をサポートするサポーターであって、
B:低伸縮領域として、
Bi:膝蓋靭帯を圧迫し、かつ、膝蓋骨を吊り上げ、大腿四頭筋の機能を補助するために、膝蓋骨の下部を取り囲むほぼU字型に、本体正面に設けた正面吊り領域を具備し、
Bii:また、大腿骨及び周囲筋腱を圧迫するために、上記ほぼU字型の正面吊り領域の左右両端から上方へ連続して伸びる方向に、本体両側面に設けた側面圧迫領域を具備し、
C:上記低伸縮領域は、樹脂より成る低伸縮性材料を本体に固着した構成を有している
D:コンプレッションサポーター。
2.裁判所の判断
本件明細書の[0002]段落(背景技術)には、以下の記載があります。
「膝部に着用する従来の筒状の伸縮性サポーターは、サポーター本体に織り込まれているゴムのパワー(ゴムの収縮力、即ち筋肉に対する圧迫強度)を変え、或いは織り方を変えることで患部に対する圧迫力、押圧力変化させる方式を取っている。しかしそれでは、膝関節の任意の箇所に必要な押圧力を加えることができないという問題があった。」
なお、明細書に記載された先行技術文献には、上記の構成と問題点とは開示されていません。
被告製品は、「筒状の伸縮性サポーター」であり、部分によって「織り方を変えることで患部に対する圧迫力、押圧力を変化」させています。
上記[0002]段落の記載によると、被告製品の構成は膝関節の任意の箇所、たとえば大腿骨に、必要な押圧力を加えることができないという問題を有する筈です。
自認の従来技術と同様の構成を有する被告製品が、「大腿骨」自体を圧迫するための「側面圧迫領域」を具備し、構成要件Biiを充足することを、原告は具体的に立証していません。
したがって、被告製品は構成要件Biiを充足せず、本件特許権を侵害しないと判断されました。
なお被告製品は、Bii以外の構成要件を充足すると判断されました。
3.まとめ
背景技術の記載は、特許権者にとって不利に働く場合があります。確実に公知であることのみの記載に留めることをお勧めします。
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