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特許権侵害時に多額の賠償を請求するには?

~侵害者が得た利益とライセンス料の請求~

2023.2.6 弁理士 新井 景親

 特許法第102条第2項(以下2項)は侵害者が得た利益を特許権者が受けた損害額と推定する旨、規定します。2項は、侵害行為がなければ特許権者自ら販売等することができた製品の売り上げ減少による逸失利益を填補する為の規定です。一方で損害と侵害行為との間の因果関係を否定する事情(覆滅事由)がある場合、損害額は減らされます。また同法第102条第3項(以下3項)は、実施料相当額(ライセンス料)を損害額とすることができる旨、規定します。
 侵害者が得た利益又はライセンス料いずれか一方の請求が原則ですが、近年、特許権者保護の観点から覆滅事由によって減額された部分(覆滅部分)に対してライセンス料の請求を認めてもよいのではないかとの議論がされてきました。2022年10月20日に知財高裁特別部によって、覆滅部分に対し、所定要件下、ライセンス料の請求が認められる旨、判決がなされました(令和2年(ネ)第10024号)。以下、判決について説明します。

原告(控訴人)/被告(被控訴人)の主張
 原告は、覆滅部分全体に3項の適用を認めるべきと主張しました。被告は、特許発明が侵害品の一部分のみに実施されていることを理由とするという覆滅部分について、特許発明が貢献又は寄与しておらず、特許権の保護範囲に含まれないこと、及び輸出品である被告製品と原告製品の仕向国は異なる国も多く市場が同一でない(以下、市場の非同一性)を理由とする覆滅部分について、海外市場の利益まで日本特許権に基づいて独占することは特許権の保護範囲を逸脱すること等から、覆滅部分に3項の適用は認められないと主張しました。

裁判所の判断について
 裁判所は、2項による推定が覆滅される場合でも、覆滅部分について、特許権者による実施許諾が可能なときは、3項の適用が認められるべきとしました。更に特許権者の実施能力(例えば製造可能数)を超えること(以下、実施能力超過理由)を理由に覆滅された場合は、原則、実施許諾可能であると認め、それ以外の理由で販売等をすることができないこと(以下、その他不可理由)を理由に覆滅された場合は、特許権者による実施許諾の可否を個別的に判断すべきとしました。
 その上で「特許発明が侵害品の一部分のみに実施されていること」はその他不可理由であり、個々の被告製品に対し本件発明が寄与していないのであるから、特許権者が実施許諾することができたとは認められず、3項の適用は認められないとしました。一方、「市場の非同一性」はその他不可理由ではあるが、被告製品の仕向国へ原告製品が輸出されたと認められない場合に、当該仕向国の市場にて、原告製品及び被告製品の競合関係が認められないことによるものであり、原告は覆滅部分に係る輸出台数について、実施許諾することができ、3項の適用は認められるとしました。

考察
 今後、特許権者は2項及び3項の両者の適用を前提とし、I)覆滅事由が実施能力超過理由又はその他不可理由のいずれであるか、II)その他不可理由である場合、実施許諾可能か否か検討が必要になると考えられます。

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